□月 □日  No642 魔窟


幻想郷にある現地法人の一角にスペルカード開発室がある、ここではより戦闘能力の高い、
そして高密度弾幕を安定生成するべくプログラマたちが日夜頑張っている。 
普段はあまり近寄りたくないところなのだがお使いで顔を出す羽目になった。


まずこの部屋を見て最初にわかるのは窓がないということだろう。 正確には窓が塞がれているのである。
これで昼夜問わず仕事をしても時間の感覚を忘れていられるのだ。
プログラマの机はパーティションで仕切られ、そこには趣味に関係するものを色々置いていい。
妖怪たちのフィギュアとかも置いてある。まさに魔窟である。
女性職員の机の中にはお菓子が満載されている。 そして壁には「派手で安全」というスローガンが掲げられていた。
開発メンバーは妖怪と人間5:5の割合である。天狗や魔法使いまで幅広く取りそろえている。


私はここが苦手である。 以前は出入りしていたのだが、そのたびに少女妖怪の外見や声質について
根掘り葉掘り尋問されることになる。 
スペルカード使用者の情報を聞き出そうと考えているのではとも思ったが、
聞いてくる内容といったら、おおよそスペルカードには関係ない個人的な情報ばかりだ。
3サイズまで聞いてきたときはいい加減にしてくれと言うしかなかった。


もちろんスペルカードは最終的には妖怪たちが作り上げることになる。
ここで作っているのは「ファーム」と呼ばれるカードの基礎部分だ。
昨年は月の魔力にさらされても安定動作することが求められたが、今回は忌みにさらされても安定動作することが
求められているらしい。 細かいことはよくわからない。


私が様子を見に来たときは、丁度おやつタイムであった。 ちなみに帰宅直前の夜9時の話である。
天狗の一人がアイスクリームバスケットを口いっぱいに頬張り幸せそうにしている。
夜高カロリーなものを食べたら確実に太ると思うのだが、意外や意外メンバーはそれほど太っていないし
メタボリックシンドロームの兆候すらないらしい。 尋ねると全員が捨食の術を覚えているとのことだった。
さらに納期が近づき修羅場になっても食べる時間をとられないと好評らしい。


また何人かの妖怪は椅子にきちんと座らずに、少し浮いた状態で仕事をしていることもわかった。
痔の予防だと言うのだが、どうも妖怪たちも痔になるらしい。
幻想郷のプログラマも基本的に顕界のSEたちとはあまり変わらないようだ。


隣の部屋で「バグが見つかりました」という声と怒号が聞こえる。
応対してくれた人は納期が近いので昼夜問わず仕事をしていると説明してくれた。
床で寝ている人を仮眠室に運ぶ手伝いをしてから帰宅する。


幻想郷で弾幕ごっこを楽しんでいる人は一度はここを覗くといいかも知れない。
自分が普段使っている弾幕が誰の手によって支えられているか見てみるのも楽しいかも知れない。
二度は行きたくない場所ではある。