□月 □日  No115 甘粕の回顧録6


霧雨の中魔法道具店に赴き魔力を帯びた骨董品を受け取る。
当社と取引のある魔法道具店の中でも最も古い歴史を持った場所である。
そこの店主は一見すると人形のような幼女のような姿をしているが
その実年齢は八雲の九尾狐に匹敵するとも言われている。
骨董品と一緒にサングラスを受け取る。
店主からのサービス品だという。有り難く頂戴する。
常時身につけるようにと念を押されたので、早速サングラスを着用して仕事に戻る。


最近、近辺に不審な服装をした妖怪兎が出没しているらしい。
妖怪兎と言えば因幡様率いる兎たちを想像するのだが、どうやらその妖怪兎は
全く別の場所からやってきた異邦人ではないかということだ。
そんな妖怪兎にばったり出会ってしまうとは、因果な商売らしい。


その姿は大英帝国の海軍制服を着た明らかに異質な外見の妖怪兎であった、背中には
サンパチに似た銃を携帯していた。髪の色も珍しい紫色をしている。
彼女は一生懸命口を動かしていたが。その声は虚空にかき消されるようにして聞こえなかった。
目はサングラスのせいでよく見えなかったが、瞳孔が開きっぱなしになっていたのが特に
印象的であった。


程なくして彼女の顔はみるみる恐怖の色に染まりそのままへたり込んでしまった。
そのまま気を失ってしまう。
一体何故そんなことになったのか理解できぬまま、放置するわけにもいかず
上司へ指示を仰ぐことにした。
へたり込んだ少女を迷いの竹林に連れて行けと指示を承る。


仕事自体は大したことではない。妖怪兎を迷いの竹林まで運ぶとすぐに
因幡様の使いと名乗る兎少女たちと合流した。
軍服を着た妖怪兎を引き渡すと、兎たちはそのまま竹林の中へと消えていった。


上司からよく生きて戻ってきたと言われた。
どうやら私は何か大切なことをしたらしい。
私が着用していたサングラスを見るて上司は「成る程」と呟いていた。
このサングラスを着用しないままあの兎に会っていれば、
たちまち麻薬中毒のような催眠状態に陥り、よくて発狂、悪ければ死に至ると説明された。
今更ながらぞっとする。


その妖怪兎は現在では別の名前を与えられ、竹林の中で平和に暮らしているらしい。
別の名前を与えることで能力の封印を図ったのだろうと推測される。
妖怪兎は安住の地を得たのだろうか、それは後世の人々が判断することであろう。