□月 □日  No117 甘粕の回顧録7


朝倉理香子をゲンソウキョウの外へと招き入れる。
本来ゲンソウキョウに旅立った妖怪たちが我々の世界に戻ることはあり得ないという。
ゲンソウキョウ最強の魔法使いと名高い彼女だが、果たして我々の世界に馴染めるのか
心配に思う。


彼女が我々の世界にやってきて最初にやったことは
海産物を食べることだった。 何十年ぶりかの味だという。
今のようにゲンソウキョウと外の世界が分かれていなかったときは
海産物も食べることができたそうだ。
早速、近所のスーパーで蟹を買ってくる。
物にあふれかえった店を朝倉理香子は珍しそうに見ていたが、
勝手な行動をすることはなかった。


次に向かった先は本屋であった。
現代用語辞書がどうしても必要だったためだ。
彼女が乗用車に対してとても冷静にいたのは意外に思う。
何故冷静にいられるかと尋ねると、陸蒸気の次は自由に道を走れる乗り物だと
確信していたからだそうだ。
どうやら私は朝倉理香子という人物を甘く見ていたようだ。


個人的にはもっと手が掛かるものと考えていたがのだが
朝倉理香子の学習能力は驚くしかない。
一週間も経つと、一人で社会生活をするくらいの知識を身につけていた。
買い物も一人でできるようになっていた。
私はゲンソウキョウの住民はもっと保守的で
融通の利かない存在だと思っていた。
だが彼女の考え方を見てそれが誤りだと分かった。


一ヶ月経った頃、朝倉理香子はいつの間にか自動車運転免許証を手に入れていた。
戸籍こそ会社で用意した物であるが、まさか乗用車を乗ることができるとは
思っても居なかったので大変驚いた。
苦労しなかったのかと尋ねると、知的好奇心が勝って苦労を感じなかったと言っていた。
新しい物を取り入れることができる妖怪や魔法使い達。
実は博麗大結界がなくても彼らは普通に生活できるのではないかとすら思う。