□月 ●日  No674 お互いの距離


私がここで仕事をする上で特に気をつけていることがある。
それは客との距離を一定に保つことだ。
近づきすぎても遠ざかりすぎてもいけない。
この割り切りがないと思わぬリスクを背負うことになる。


魔界に住む嫉妬妖怪の話によれば、恋愛のいざこざで毎回うちの会社でも一年に一人くらいの割合で
この世から消されているのだという。 一応幻想郷へ移住したことにして明るみには出ないのだが
この妖怪は俺の嫁だという考えは危険すぎる。


少女妖怪が男女関係に疎いというのはおおむね嘘である。
海千山千の強者ばかりで、だいたいの場合達観している。
もちろん天真爛漫な妖怪も居るが、こうした妖怪は個人に対して執着することも少ないことから
結果的に補食されることも少なくない。
ここでは誰とは書けないが過去に男と死に別れたとか、逃げ出したとか、借金こさえたとか色々な話を聞くことはある。
長く生きれば出会いも加速度的に増えるわけだから致し方ないことかもしれない。


ちなみに妖怪たちはあまり面食いがいない。
重要視されるのは性格である。これは長い期間一緒にいても安心して接することができることを
求められるかららしい。 外見はすぐに劣化するというのが風見女史の意見だ。
ただし太りすぎの方は注意がいる。 おつきあいにOKはイコール餌OKの意味に思われている。
脂肪肝は妖怪にとって珍味だし、メタボ体型も食える量が増えるという意味に他ならない。


さて、やっかみ半分で朝倉との関係を聞いてくるアホが多くて困る。
ぶっちゃけて言うと朝倉は上司としては尊敬するが絶対同居したいとは思えない人物である。
まず金銭感覚が酷い。 家を買わずにキャンピングカーを買い、特売の納豆を買うためにおばさん連中と格闘しながら
値段の高い総菜を衝動買いする。 そして食べきれずに私のところへ強制お裾分けされる。
お陰で私の食費は安 もとい 食べきれないと何が起こるか分からないので困る。


本屋に行くと、とにかく沢山の本を買う。ジャンルは多種多様。ビジネス書から漫画雑誌まで様々である。
この生活感覚のズレっぷりには最初は笑って済ませられたが、だいたいの人は耐えられなくなる。
さらに言えば私以外の男と付き合って一ヶ月以上保ったためしがないのである。
朝倉に言わせれば自分の外見で、恋愛経験に乏しいと勝手に思い込まれてしまっているとのこと。
馬鹿にしている態度が鼻につくらしい。


そんな朝倉だが最近距離感をつかみにくい人が増えて困ると言っていた。
ふざけて誘惑すると真に受けてしまっている奴がいるらしい。
冗談だというと今度は拗ねるので扱いに困るらしい。
そういう人間は好きというよりは母性愛を求めていることが多いのだそうで、
朝倉も表層的なおつきあいをしてからすぐにフェードアウトだと思っているようだ。


妖怪たちとそれでもおつきあいしたい場合は、相手の方が経験豊富と思って間違いないので
そこのところを注意するべきだと思う。



余談だが、北白河が私はタイプじゃない人と何故か付き合ってしまうと言ってコメントに窮した。