□月 ●日  No680 喧嘩するほど・・・


うちの部署の雰囲気は基本的になれ合いムードである。
和気藹々とも言えるし緊張感が無いとも言える。
それでも時にはちょっとした衝突も起こる。 と言う話。


朝倉が北白河に講釈をたれている。北白河の目が据わっていて殺気に満ちていた。
朝倉の話はこうだ。
幻想の月にある静の海。そこには生命が居ないと言われる。
海の代謝活動や食物連鎖の類を月人が「穢れている」と規定したためだと言われている。


しかし生命の居ない海は、ちょっとしたことで環境が激変してしまう。
森のないはげ山があっという間に土砂崩れを起こすのと同じメカニズムである。
過去にも取り上げたことだが生命は、環境を一定に保つ力があるのだ。


それでも月にある「静の海」は平静を保っている。
これは膨大な月の魔力で半ば強引に海を保っているからだと言われている。
あまりに非効率で、なんとも馬鹿げた話だ。
生き物たちに任せれば、余った月の魔力は他のことに回せるのだ。


穢れを避けるために結局は、環境を破壊することにつながる。
何のために穢れを避けているのかわからない。 手段が目的となるとはまさにこのことを言うのだろう。
理念に狂っている集団。 それが月人である。



「つまり些細なミスを調べるためにエネルギーを使うなという意味ですね」
冷静な北白河の突っ込みが入る。
要は朝倉が伝票記入を間違えて書き直しを指示されたわけなのだが。
北白河も自分が間違ってないと思ったらとことん強気に出るタイプなので
言葉もいちいち刺々しいことこの上ない。
本当は朝倉が悪いはずだが、言い方が悪いから逆切れを誘発してしまう。


朝倉が例え話をしたのは、苛々を押さえるためだろう。
そこにぴしゃりと北白河が突っ込みを入れたからいよいよ朝倉は引っ込みがつかない。
ボスは無言で社内にある一枚の張り紙を指し示した。
カードのアイコンに○斜線、社内での弾幕ごっこ禁止である。



どうしようかと考えあぐねていると
そこに魂魄が割って入ってきた。
二人を引き剥がして落ち着くように促す。
流石は人生の先輩、魂魄は両腕を振り上げて


「ファイ」


そして
北白河と朝倉の延髄蹴りは見事魂魄にクリーンヒットした。


床に突っ伏す魂魄がうわ言のように私に語りかけた。
「これが正しい止め方だ」
真似しろというのか。
「無理」
と答えたら彼はそのまま気絶してしまった。


今日もうちの部署は平和である。