□月 ●日  No692 メイド長が帰ってきた


恐怖の紅魔館。 分かってはいたのだがヒステリックなメイド長の怒号と
文字通りの阿鼻叫喚のるつぼが紅魔館を見舞う。
こうなることは予想していた。
見えるところこそ綺麗になっていたとはいえ、ちょっと細かいところに目を配ると
庭は雑草が生い茂り、床や窓の掃除は一見綺麗にやっているようだが、
蜘蛛の巣が払われてなかったり、窓枠の掃除は怠っていたりとといった有様だったからだ。


もちろん館に誰もいないわけではない。
ノーレッジ女史も居たし、美鈴女史もいる。が二人に共通している部分がある。
「大雑把」ということだ。
ノーレッジ女史のロケットを見ればその大雑把振りはすぐに分かる。
貼りまくったお札や、隙間妖怪に惨めな思いとまで言わしめたデザイン。
うちの会社が全面協力しなかったのは反省の余地があるものの、それを差し引いても
安全策を追加追加で設計したため不格好なことこの上ない。


魔法使いでは大先輩の朝倉がノーレッジ女史を評すると、「無駄が多い」につきるという。
人形遣いのアリスとは制御構造が正反対である。 アリスが細かな網を同じペースで
延々と編み続けるのに対してノーレッジ女史の制御構造は要所要所で目が細かいものの
他がザルである。
こうした魔法構造は一見効率的に見えるが力で押されると弱い特性があり
結果的には細かな制御を繰り返す方がはるかに効率が良くなる。
そんな彼女が紅魔館を守っていたのだから、メイド長が戻る前日になって徹夜で掃除をしたものの
それが却って手つかずの汚れを目立たせるだけの結果になって今日に至っている。


ただ、ボスに言わせるとメイド長にも多分の責任があると言うことだ。
なまじメイド長は有能すぎて、ナンバー2が育たなかったのである。
メイド長の時間を止める能力は万能だが、しばしば段取りを破壊してしまう。
妖精メイドがいつまで経っても段取りが悪いままなのは、段取りが悪いと見抜くやいなや
時間を停止してしまい目的を完遂してしまうのである。
これでは問題点が出てくるはずもない。


メイド長にほうきやらちりとりを納品。 メイド長の顔には生気が抜けて目に隈ができていた。
珍しくしおらしい態度でほっとする反面反動が怖いと思う次第である。
ボスがあとでヴァンパイアの主人に相談してくれると言っているのでそれに期待である。