□月 ●日  No705 アカシックレコード


鴉天狗がいつものように新聞を撒いている。
一般にタブロイドの権化と言われている鴉天狗の新聞だが
幻想郷で生活していく上での各種お知らせも記載されているので全く無視というわけには
いかないのが始末が悪い。


天狗達の新聞は決して無料ではない。
実際には新聞のための費用は徴収されている。それは名主さんによって回収され
名主さんは天狗にいくばくかのお金を渡して広告依頼をしているらしい。


こんな新聞だが天狗が好き放題発行しているため結構な量になる。
現地法人には天狗達が発行した新聞全てが集積網羅されている。
こいつを全てスキャナで電子化してのち、結界の外に運ばれる。
結界の外に運ばれた新聞は情報部によってさらなる分析がかけられる。


情報部の人間とお茶をして色々な話を聞かせてもらった。
一見ゴミの塊だと思っていた新聞だが、その情報の裏にある意図や真相を読むのが
情報部の仕事であるらしい。 特に同一事件を複数の天狗が扱っていた場合は
表現のぶれや天狗の性格が加味され、かなり正確に幻想郷の実情や今後を占うことができる。
このような情報は「アカシックレコード」と呼ばれ報告書の形でボスの机や朝倉の机に提出されている。


意図や真相を読むにはかなりの労力を要する。
そこは幻想郷いろいろな仕掛けが弄されている。
ひとつはあぶり出しだ。 新聞自体は無害な情報しか載っていないが、火であぶることで
真相が載っているケースがある。 凄いものだとX線であぶりだすものもあるそうだ。
他にはアナグラム形式がある。 その新聞にはアナグラムに該当する部分に小さな印があり
その部分の文字を入れ替えることで、天狗の意図を読み取ることが出来る。
もっと強烈なものはエニグマ方式。暗号解読書籍を用いたやりかたで
紅魔館の図書館から解読書を借りて分析される。
こうした情報は高コストであるデカトンケイルを用いて分析されるそうで、いかに天狗達の新聞が
重要視されているかその片鱗を見ることができた。


天狗の記事には自作自演型と呼ばれる、ネタがなければ自分で用意する型の情報もある。
情報部にとってはこれが宝の山らしい。
何かしらの小異変が起こったとき、幻想郷の住民がどう対応するかとても正確に把握することが出来る。
私が配送のときに受け取る性格分析書があるのだが、それは主にこうした新聞を通して
書かれていることを知って少なからず驚く。


なんで情報部の人がこんなにべらべらと話してくれると思ったら
天狗の生写真を撮ってくれと依頼された。
高速移動している天狗達を撮影するのは至難の業だと言ったら、
それでもいいから撮影してくれと言う。
天狗の中には可愛い子もいるから気持ちは分からないくもない。
期待はするなと念を押して承諾することにした。
被写体になった天狗の反応を見るのも興味があったからである。


朝倉にその話をしたら、モニタリング用の画像データを渡された。
別にそんなことでリソースを使わなくていいということだった。
仕事しなくて済んだという安心感と、撮影にかこつけて色々撮れなくなった残念感が色々交差して
ちょっと複雑な気分になった。