□月 ●日  No704 メタルは☆を超える


突然のスクランブル。 場所は月の都入り口。
それはワタツキ姉からの通報だった。妹が大変なことになったらしい。
ボスと朝倉に相談したところ魂魄を連れて行くことになった。
タツキ姉妹とは薬屋のかつての生徒だった連中である。
わりと話が通じることもあってとりあえず窓口になってもらっていた。
そんな彼女の身になにかあると色々とまずいことになる。


見た瞬間何が起こったのか理解できなかった。
タツキ妹が変わり果てた姿になっていた。
月人の鎧を身にまとい、顔にべったりと白粉を塗って隈取りまでしている。
髪の毛は金色に輝いて、月人にとってタブーの筈の穢れまくりの歌を文字通り吐いている。
剣を持っているはずのその手にはなぜかエレキギターが握られて
得体の知れない照明効果とスペルカードの機能である地面いっぱいに広がった魔方陣
奇妙な雰囲気を醸し出す。
ついには月の兵隊を蹴り上げ、ギターを破壊しながらさらに得体の知れない儀式が進んでいく。


だが真の異変はもっと別のところにある。
その姿を見た月人たちや月兎たちはまるで催眠術に掛かったかのように熱狂していたのだ。
そして発声器を使用したと思われる金切り声。そうこれは紛れもなくあれだ。


魂魄が唸っている。 ワタツキ妹にはカミを自分に下ろす能力がある。
博麗の巫女との接触後、見聞を広げるためと称して自称現人神や浅間に別のカミを下ろす方法を
尋ねて回っていたそうだ。 まさかこんなことになろうとは。
半霊を用いたカミとの交信の結果わかったこと。
それはワタツキ妹に「デスメタルのカミ様」が降りていたという事実だった。
最近カミといってもいろいろな人がいる。カミもインフレ気味なのだ。


魂魄は放っておけばいずれ満足して出て行くという。
何より月人たちに大受けだ。タブーを口にするデスメタル独特の歌詞は月人の心を掴んだようだ。
うさぎさん軍団も何故か同じように白粉を塗って隈取りをする始末。
一つ言えるのは、幻想郷の外にあるライブと全くと言っていいほど雰囲気が変っていないことだ。
この圧倒的ライブ感はいるものにしか分からない。
まるで集団催眠に掛かったように皆がワタツキ妹を賞賛する。まさにカリスマである。



彼女が解放されたのはそれから6時間後。
興奮冷めやらぬ月の都の中で、次のライブはいつですかという問い合わせが殺到
何故か対応に追われた。
タツキ妹はもう二度と下ろさないと疲れ切った表情で呻いていた。


この話を朝倉にしたら、彼女にレジェンドが増えたぶん力が増したと解釈するべきだと言われた。
どうやら音楽の魅力は住んでいる場所も関係ないことらしい。