□月 ●日  No724 中有の道でよくあること


せっかくの休みなのに会社から電話。 中有の道で動員がかかったようである。
中有の道は死者が最初に通る道。 この頃の死者は生前の記憶も強く持っていて
まさに死にたてほやほや感が強い。
現地では当社の職員だけじゃなくて霊能局のメンツもいる。
霊能局にもキャリアとノンキャリアがいるのだがこのときばかりはどっちも関係ないようだ。
とにかく人員が要る。


動員が掛かるときはどんな時か
それは著名人やカリスマが亡くなったときである。
中有の道が有名人を一目見ようとやってくる亡者達であふれかえり、それを見物しようとする
妖怪まで集まり出すのである。 そこでうちの職員は人間バリケードを作って
混雑を解消するわけだ。 この方法は妖怪たちが集まる混怪でも効果が立証されている。


有名人を一目見ようと亡者が集まるのならまだいい。
最悪なのは、後追い自殺者である。
彼らは究極の追っかけだ。 その人物を死んでも追っかけができるように自ら死んでしまう。
こいつらは本当に言葉が通じない。
説得してもだいたい逆ギレされる。「こっちはわざわざ死んだのだからなんとかしろ」と
いう論調である。 ガストロームのお世話になりたくなるような奴らだが
こんな奴がひどいと数十人とか湧いてくるのだ。 たまらない。


たまらないのは私たちだけではない。閻魔様も相当困っている。
ボスの友人とは違う閻魔様も最近の殉教型亡者に手を焼いている者の一人である。
自殺をすれば原則地獄行きなのだが、たとえばカリスマの対象がなんらかの理由
たとえば年齢詐称などで地獄に行っている場合、罰を与えるどころかむしろ喜ばれたり
恍惚に浸ったりするらしい。 自分もカリスマと同じ罰を受けているのねとかいう理屈だ。
カリスマ崩壊の事実を見せたりするなど対応に追われているがさしたる効果は上がってないようだ。
彼らはもうすでに一線を越えた人たちだ。そんな彼らの決意の前では中途半端な対策は
単なる試練にしか映らないのかも知れない。


誰が亡くなったかは我々も直接は伝わってない。
たとえば動員されたメンバーがその人物のファンだったりすると
業務に支障がでるばかりか大事故に繋がるからである。
そこはプロだ。 自分の業務はきっちりこなす。


人垣ならぬ霊垣を力尽くで押さえつつ、なんとか大名行列を移動させる。
ところどころで弾幕ごっこも始まっている。クレーマー霊魂と野次馬天狗の戦いである。
ベストショット狙いであろう。 状況はさらにカオスになる。
本来なら信仰の対象になりうるはずの天狗にさえこれだ。
流れ弾でいくつかの霊魂がダメージを受けているはずだがそんなことは気にしない。
下手すると蓬莱の薬を服用したときより耐ダメージ性が高いかも知れない。
竜宮の使いもびっくりだ。


こうしてどうにか状況は終了。
振替休日が貰えるとはいえ、そのときは心身ともに疲れ果ててしまう。
まともに買い物すらできないほど疲れる。
こうしてたまの休みが吹っ飛んでしまうわけだ。 南無。