□月 ●日  No728 幻想エアロダンシング


河童からある物品を引き取りに行く。 こいつは背中に背負って使うリュックのようなもので
そこから伸びている紐を引っ張ると色々な色の煙幕が立ちこめるという代物である。


夏になればあちらこちらで祭りが繰り広げられる。
多くは秋の豊作を願う祭りであり、農作業の休日を楽しむ祭りである。
その中で数年に一回幻想郷で一番空を飛ぶのが上手い妖怪を決める競技会が開かれる。
ここで重要なことは決して速度を競っている訳ではないということだ。
細かな制動や複雑な動きの芸術性を競うのである。


ここで活躍するのが演技用スペルカード。
演出用の弾幕で、当って痛くない演技用である。
通常これらの弾幕は一対一の勝負でよけるものだが、競技では団体で数分狂わず飛行することが
求められる。


弾幕そのものは痛くないが、その飛行は過酷そのものだ。
顔こそ笑顔を絶やさないが、高速飛行しながらG−LOC一歩手前の急制動を繰り返すため危険極まりない。
G−LOCとは急な方向転換を繰り返すことによるGで意識が吹っ飛ぶ現象のことだ。
こうなるとさすがの妖怪も墜落してしまい大けがを負ってしまう。
さすがにこういう演技では人間の参加は禁止である。


霧雨のご息女が出たいとわめく一幕もあったが、演技一つを見ただけで顔を青ざめて帰ってしまった。
ヴァンパイアの姉妹も大騒ぎしそうだと思ったが、彼女は参加するより見物したほうがよいと
考えているようだった。 もし騒いだら冴月を送り込まないといけないところだった。
うちの会社でも浅間が参加すると騒いでいたが、あとで朝倉がピコぽんハンマーで黙らせたと言っていた。


弾幕を回避する演技者の動きは華麗の一言。
妖精たちが見せる空間モニターで拡大表示されて幻想郷の住民はつぶさに演技の模様を
見ることが出来る。 
演技中はの空域は通行止めとなり、いかなる妖怪の通行も禁止される。
破った妖怪はたとえカミでも強制排除される。 


天狗達の航空ショーは競技のメインディッシュである。
河童達から受け取ったリュックを背負い、煙幕を棚引かせながら飛翔する姿は
外の世界の航空ショーと変らない。
急激な失速からのきりもみ飛行、そしてホバリングと妖怪独特の動きは目を楽しませる。


テントに墜落した妖怪たちの救護施設がある。
ここに包帯やら薬やらを納品する。 
薬屋と詐欺師兎やブレザー兎が忙しそうに動いていた。
詐欺師兎が「特需 特需」と叫んでいたのには閉口した。
その中でたぶん狩出されていた兎が頭を抱えているのを目撃した。
そこには墜落してあっちこっちが破損したヴィヴィットの姿があった。
河童達を読んでどうにか事なきを得たが、さすがの薬屋も人形は専門外と苦笑していた。


優勝した天狗一味には隙間妖怪から景品が与えられた。
優勝旗とドラム缶30本分の酒が隙間妖怪から渡された。
皆が必死になる理由が何となく分かった気がした。