□月 ●日  No735 器用な人


お盆シーズンともなると取引先は皆休み。
商品の問い合わせをするにもどこもかしこも休み。
こういうときに限って変な注文が舞い込んでくる。


今日のお客様は美鈴女史。それも秘密の相談事である。
決して邪な想像をしてはいけない。 
そんなことを想像して期待を裏切られたことは枚挙に暇がない。


美鈴女史が葉っぱで隠していたそこには、見事に割れたインターロッキング。
どうやら胆を練っていた時に誤って破壊したらしい。
このインターロッキング、一応自動車用のかなり頑丈な物を使っている。
数トンの重さに耐えられるように作られているはずだが、
一体どれだけの力量が働いているのか、想像したくない。
まさに殺人級の脚線美と言えるだろう。


とにかくお盆の時期だけ凌げばよいということで
顕界に戻ったその足で向かうはホームセンター。 
最近のホームセンターは昔と違って色々なものが揃っている。
ちょっとした部品はここに行けば入手できるくらいだ。
もちろんあまりホームセンターに頼りすぎると、うちの取引先との関係が悪くなるので
多用は禁物である。


買った個数は1パレット。流石に一部分直すと違和感があるので範囲は広くとりたい。
山積みになったインターロッキングは絶望的な重さ。
フォークリフトの力を借りてなんとか軽トラックに積み込んだが
問題は下ろし方。 こんなに重くてはとてもとても運べた物ではない。


結論から言えば、美鈴女史の怪力を舐めていた。
まさか背筋の力でパレットをあっさり運ぶとは思わなかった。
メイド長に見つかってもヴァンパイアの主人に見つかってもお仕置きの沙汰だから
彼女も必死なのかも知れない。
ハツリ機なしで既存ブロックも難なく砕いてしまう。
まさに重機いらず恐るべし美鈴女史。


粗方砕き終わったところでメイド長に見つかった。
綺麗に補修しないとナイフで刺すとドスのきいた声で言われて
夏の炎天下なのに一気に躯が冷える。


ブロックがでこぼこにならないようにどう整地しようかと考えていたら
なんと美鈴女史足のステップだけで地面を真っ平らにしてしまった。
どうやら私の出番は要らないようである。


結局墨だし作業は私がやったが、門番たる者器用でないといけないのだと
今更ながら理解した。 シエスタくらい赦してやれ。