□月 ●日  No736 幻想郷シミュレーターへようこそ


普通の人間が幻想郷に行くのは大きなリスクを伴うがどうしても
幻想郷に行きたい人に、幻想郷気分を楽しめる場所が顕界には存在する。


それは茶室だ。 日本家屋の茶室。
ここに数時間居ても心地よさを感じるようなら、その人は幻想郷に向いた性分の人と言えるだろう。
ゆっくり流れる時間を楽しむ気概があれば幻想郷へ行っても十分やっていける。
ここで不快な気分になるようなら幻想郷に行くべきではない。


一般的に顕界の茶室は四畳半と相場が決まっているが
幻想郷の阿礼乙女邸ではわずかに二畳しかない。
マンツーマンで流れるゆったりとした時間の流れは時間が過ぎるのを忘れるか
もしくは阿礼乙女に見とれるかどちらかとなるだろう。


朝倉に言わせると日本家屋の茶室は幻想郷にかなり近い存在だという。
なぜなら茶室は他の部屋とは機能面でも断絶し、一種の別空間として存在するからだと言われる。
まさに幻想郷シミュレーターと言うべき場所なのだ。


うちの会社でも幻想郷で仕事をする上での評価方法として
茶室でお茶会を開いている。
幻想郷に向かない人間はいつもそわそわしていて、 酷い場合だと携帯電話をいじる場合がある
こういう人は幻想郷に行くと確実に発狂する。
一方幻想郷の住民は茶室にいるととても落ち着いた心持ちになるという。


ヴィヴィットも最終調整は茶室で行ったらしい。
インプットされる情報集積方法を幻想郷に合わせるためには
このような場所を利用するのが最適だ。 つまるところ、大きな変化を捕らえるではなく
少々の変化の機微を捉えるのである。
これには私も驚いた。 幻想郷へ行くためのロボットを作るには
自ら和の文化を学び理解することが必要なことに気づいていたからだ。


朝倉が久しぶりに会社の茶室に入った。
五分持たなかった。 電話のスイッチを切り忘れたのか電話が次から次へと舞い込んで
ゆっくりすることすら出来なかったようだ。
今は茶室に行くにも色々なものを置いていかないといけないのだと感じ入る日であった。