□月 ●日  No742 それはそれは洒落になってない話


うちの会社の他愛のない会話。
北白河が朝倉にお肌年齢を気にしなくていいのは羨ましいという話からこの会話が始まった。
そこで朝倉から語られたのは洒落にならないお話である。


妖怪や魔法使いは一般的に歳をとらない。実際は少しづつとっているのだが
普通の人間の10倍は進行が遅いと思えばよい。
ところが一般企業でずっと歳をとらないのはいつしか問題となる。
周囲の人間は年齢を重ねてそれなりの外見になるのに、妖怪たちは外見が変らないのだから
当然皆もおかしいと思ってしまう。
だから会社に就職しても五年程度で次の職場に移ることになる。


次の職場に移るときも同じ業界に移るのは自殺行為だ。
なぜなら会社をやめるのは妖怪ばかりではないからだ。
同じ業種に進んでいる人はごまんといる。 そうすると、以前同じ会社に勤めていた人と
ばったり会うなんてことも起こる。
転職は異業種にするしかないのだ。


そうなると異業種に対応した勉強もしないといけない。
それなりの資格も取得しないといけない。
古い資格は実年齢がばれるので履歴書に書けないということも起こっている。
新しい職場では年齢も詐称するので、若者の文化には常にアンテナを張ってないといけない。
朝倉も冴月も勉強のためにファッション雑誌を購読して衣服にそれなりに金を支払っている。
ジェネレーションギャップは妖怪にとっても大問題なのだ。


妖怪の中ではそういった柵を嫌って、日雇い労働に走る者がいる。
この方法では今度は所得が安定しないことが多い。
生活が苦しくなってしまった天狗をその目で見たこともある。


結局のところ人の外見、人の関係は移ろいでいくものだということだ。
この事実を受け入れないで、自分だけ若さを維持し続けられても
人間同士の関係に逆らう事なんてできないのである。


余談だが少女妖怪の多くはニキビに困っているそうだ。
肌年齢を十代に固定している妖怪にその傾向があるようである。
妖怪たちが顕界で暮らしていくのはやはり大変なことなのだと思う一日であった。