□月 ●日  No766 とある人物の行動原理


朝倉が幻想郷に居たくない理由。
それは我こそは最高の魔法使いを標榜する愚かな人が挑戦してくるからだ。
朝倉にとってそれはとても馬鹿馬鹿しいことに映る。
彼女にとってすれば、友人一人助けられない魔法で最強を名乗るなんて烏滸がましいからだ。


朝倉が幻想郷から離れるとき、またしつこい魔法使いが挑戦してきた。
その自信過剰な口ぶりから、大した場数は踏んでいないことは間違いなかった。
場数を踏んだ魔法使いはそもそも争いを避けるものだ。
お互いの被害がとても大きくなるからである。


スペルカード三枚の勝負。
それすら朝倉にとって馬鹿馬鹿しいものだ。
スペルカード戦はあくまでお遊戯みたいなもの。
第一スペルカードの基礎理論を作ったのは朝倉自身だ。
あくまで妖怪と人間が戦って互角になるためのものだ。 
最強を自称するなら相手を殺すつもりで戦うのが筋だろう。
あまりに馬鹿馬鹿しいから、朝倉はいつも「最強の座はあなたに譲る」と言う。
それがますます相手を激昂させる。 わかっていることだ。


いつものように相手が発動するスペルカードを観察する。
弾幕生成のプロセスは基本に忠実なものだ。 銃座フレームを展開して後、薬室と砲身を構築する。
魔力を弾丸に変換するプロセスの後、弾丸は次から次へと薬室に届けられ発射される。
これが弾幕戦の基本である。
朝倉は、軽いステップで弾幕を回避していく。弾幕の発生条件は次から次へと逆アセンブルされ
弾幕が最終的にどこに着弾するか予測できてしまう。 それに従って動くだけだ。 
朝倉もカードを発動させる。
だが弾幕はほとんど出現せず、相手の周りに丸い物体がふわふわと漂うだけ。


相手は完全に勝てると思い込んでいた。 
朝倉の弾幕は容易に回避できる。 それがますます相手の自信を深めることになったが、
お互いのカードの発動時間が過ぎた瞬間ようやく相手は異変に気づいた。 
カードの発動時間が過ぎているのに物体は消えていないのだ。
丸い物体はカードで発動したものではなく、あくまで朝倉が力尽くで出現させたものだった。
魔力で作った浮游機雷である。


やがて相手の逃げ場はなくなっていく。二枚目のカードを出した時点ですでに相手の移動範囲は
相当狭められていた。 思うような回避ができない中、あざ笑うかのように朝倉が繰り出す魔法が
飛び込んでくる。 幻想郷では規格外の高速弾丸だった。


たちまち被弾する相手。 身代わり呪符を使ったところで、浮遊する魔力の玉が行く手を阻む。
触ったらたちまち爆発を起こすためいよいよ逃げ道がなくなる。
そこに正確な狙いで数発の弾丸が撃ち込まれる。 最初の数発は相手に避けさせる。

逃げ込んだ先にはすでに次のカードで出現した魔力砲台が鎮座していた。
相手はふたたび身代わり呪府を使う羽目になった。


相手が大技を使ってきても朝倉は冷静だった。
そして大仰なポーズで大技を使う真似をする。
相手は力勝負と察して、弾幕を収束させるように両手を前へと掲げた。
だが、ここから先は相手にとって全てが想定外だったのかも知れない。
朝倉は姿を隠すといきなり相手の目の前に出現した。
そしてドスの効いた声でこう囁くのである。
「じゃあ、死んで」と
朝倉の言葉とともに相手は光芒に包まれた。


どのくらいの時間輝きに包まれたのか、
相手が気がついた時、ふと目の前をみるとなんと状況がかわっていなかった。
あくまで光に包むだけの魔法だったのか。 馬鹿にされたと思い歩みを進めるとそこは
最初に配置していた浮游機雷であった。


という話を依った魂魄から聞いた。
朝倉があいかわらず、私もできちゃった婚したい、でもすぐ離婚とか変なことを言っている。
魂魄は「一回生まれ変わったらできるかもしれないよ。」と言ったため
巨大ピコぽんハンマーの餌食となった。


幻想郷で殺伐としている生活を送るよりは確かにこちらのほうが良いかも知れない。
そう考えたら、彼女の行動原理も何となく理解できる気がした。