□月 ●日  No796 再思の道で奉仕活動


再思の道という土地が存在する。 阿礼乙女の著書には
自殺を試みる人が引き寄せられるとされ同時に思い直す場所でもあるとされる。 
もちろん阿礼乙女の著書はかなり怪しい部分が多い。
幻想郷では残念ながら間引きも行われていたし、月の都が科学的な建造物ではないことも
分かっている。


さて再思の道であるが何故思い直すのか、だいたい三パターンに分類される。
ひとつは、妖怪に襲われて怖い目に遭い、急に生きる実感が湧いてしまうケース。
ふたつめは、植物の毒で急に不快感に見舞われて嫌になるケース。
そして、職員による道狩りで説得されるケースだ。


この時期道は枯れ始めた彼岸花でえらいことになっている。
私は当然草刈り要員というわけだ。 切るのは弾幕でやるが、片付けは男手がいる。
たまに外の世界の服装で自殺志願者が歩いている。
死ぬのは結構だが、富士の樹海のように片付ける人や妖怪が居ることを知ってもらいたい。


基本的に自殺したい人に説得はしない。
説得したところで本人にとって問題が解決するとは思えないし
最終的には本人が決めることだ。 ただ淡々と事実だけは伝えることにしている。
自殺者の片付け費用、そして死体を狙ってやってくる妖怪たち。 


ついでなので彼岸花を運ぶのを強引に手伝わせる。 どうせ死ぬのだから労働力を使わないのは損だ。
構わないでくれと言ったって無視。 どうせお前は死ぬのだから体力を温存するのは愚かだと言って
無理矢理付き合わせるのだ。
すると、切った草の間に白骨遺体が顔を覗かせる。
死にたてほやほやだと、ウジも湧いて酷い有様だ。
だいたいこれで殆どの人が死ぬ気が失せる。 
自分の末路がこんなゴミと一緒に捨てられるとわかったらどうだろう。


薬とかテントもあるが、あれも片付けが面倒だ。
中に遺体があるとさらに面倒になる。 地縛霊がついているケースもあるが
妖怪のスタッフが直ちに追い払ってくれる。 グロに耐えられればとりあえず安全な仕事といえる。


手伝わせた自殺志願者が帰ると言うが、逆にふざけるなと恫喝する。
こっちは既に頭数に加えたのだから音を上げられたら困る。
最後はきつさで涙目になっていたが知ったことではない。
そして帰りの運賃と餞別でお金を手渡す。


刈り取られた彼岸花はまた花を咲かすだろう。
一番綺麗なタイミングでこの地を見ると美しい光景に見えるが
実際のところはこんなもんである。
自殺志願者がその後ここにやってこないところをみると少しはマシになったと思われる。