□月 ●日  No854 取り立て現場


配達先でこういう事を聞かれると堪らない一言。
「○○さんは最近見ないけどどうしたのですか?」
適当な事を言って誤魔化せばいいのにきちんと答えられずとぎまぎしてしまう。
例えば異動したとか、普通に会社をやめる場合なら先に彼らに挨拶することになっているから
別に問題はない。 ここで問題となるのは不正を働いて会社を「やめさせられた」ケースである。


この時期になるとこうした不正の類がちょくちょく発覚する。
だいたい年末にさしかかって暮らしが厳しくなると業務上横領があったりするのだ。
例えば社用車の燃料カードで自分の自動車の燃料を補充するアホとか、
美少女妖怪の服装を横領して換金する奴、プレミア化した幻想入り商品を換金しようとする人様々だ。
はっきり言うと被害総額は大したことがない。
だがこの大したことがないが問題である。 ボスも朝倉もこうしたことには容赦しない。
確実に会社に来れなくなるところまで追い詰められる。 自業自得なのでどうしようもない。


横領じゃなくてもギャンブルなどで身を崩した社員の元へ借金取りがやってくる場合もある。
彼らの行動や反応が実に面白い。 いかにもと言ったようなチンピラ風の二人が私の顔を見るや小声で
「あのう、小柄な女の子は来ていませんよね」と聞いてくる。
実はこの二人、運悪く姫ちゃんこと閻魔様のいる前で取り立て行為をしたため、いきなり
ドロップキックからのマウントポジション殴打拘束監禁洗脳もとい説法の地獄コンボを喰らって
悪夢のような思いをした人だったりする。
あまりに居たたまれなくなったので、朝倉と一緒に介抱したらこういう縁ができてしまった。


二人とのやりとり。
「出張中です」と答えたら、割と小さくなって待っていた。
これは普段やってくる借金取り天狗とほとんど同じである。
北白河から出された番茶をすすりながら本当に静かに大人しく待っている。
彼らもアホじゃない。我々が幻想郷から戻ってくるときが身柄を押さえるチャンスであることを
重々承知している。 外で待たないのは威圧感を与えるためなのだが
ここにいると威圧感を与えられているのはむしろ彼らだったりするのが面白い。
現実問題としてここで暴れたとしても、確実にここの部署の連中に酷い目に遭う。
たぶん二人で来ても、浅間を倒すことすら敵わないだろう。
ヨッパライOLほど始末の悪い存在はいないからだ。
とりあえず数時間待つが、多分あっちで連絡を受けているのだろう。
待たせるのもいけないので今日のところは帰って貰う。
ほっとした表情のふたりが印象的すぎた。


結局、借金をした当人は次の日から会社に出なくなった。
正確には出られなくなったというのが正しいと思う。
入れ替わりで世話話をしにきた天狗達と駄弁っていたら、今頃はマグロ漁船にでも
行っているのではと洒落にならない話をしていた。
笑えない話だが現実としてはこんなものである。