□月 ●日  No855 お歳暮の季節


年末進行で糞忙しい毎日を送る中、あっという間に一日が終わっている。
忙しさの原因はお歳暮である。 霧雨店をはじめとした幻想郷の商家でもお歳暮を配ったりしている。
そのための物品配送があるといよいよ年末だと感じるわけだ。
顕界では概ね終わっているお歳暮商戦であるが妖怪太陰暦の名残が強い幻想郷では
この時期からお歳暮の季節となる。


しかしながら高価な贈答品を贈るという顕界の発想とはひと味違う。
これは顕界のお歳暮が官吏に対する袖の下的贈答品であることに由来する。
幻想郷のお歳暮はどちらかというと一般のお店で行っているカレンダー配付に近い存在である。
素朴でちょっとしたものを送るのが幻想郷流だ。


妖怪同士でも日頃お世話になった者同士でのお歳暮を賀す風習がある。
社会的なシステムを持つ天狗達や河童達は特に盛んだ。
もっとも河童の場合、誰が見ても同じきゅうりを送り合っているようにしか見えず些か滑稽である。
鬼たちの場合は一升瓶の乱舞となる。 色々な銘柄が飛び交うため結構色々な種類が呑めるらしい。
仕事で薬屋へ行くと地上兎軍団がお歳暮をせっせと開けて整理している。
日頃お世話になっている人に対しての贈り物であるから、人を助ける職の者にこの手の贈答品が
集まるのはむしろ当然といったところか。


さて、このお歳暮で結構大変な思いをしているのがメトセラ娘と上白沢コンビだ。
二人にも結構な数のお歳暮が舞い込んでくるのである。
問題は二人とも独り身であるということだ。 沢山の食料品がやってきても余らせてしまう。
しかし二人とも律儀な性格だ。 貰った者はきちんと消費しないと気が済まない。
食料品を買う費用は助かるが、腐る一歩手前で消費しているので健康に悪そうだ。
二人とも胃袋だけは丈夫なように見えるので何とかなりそうな按配ではある。
紅魔館でもお歳暮が大量に舞い込むが、妖精や美鈴女史など胃袋も大所帯なのでそれほど問題になっていない。


一方でお歳暮がろくに来ない奴らがいる。
博麗の巫女と例の神社の連中だ。 例の神社については最近になって天狗達からお歳暮が届くようになり
色々助かっているそうだが、博麗の巫女にはまるでお歳暮が届いていない。
もっとも沢山来たところで消費できるのはせいぜい一人ないし二人程度であるから
沢山来たらそれはそれで困るとは思う。


たまたま会った中間管理職狐にそこのところを聞くと、
その理屈なら私たちのところにもっとお歳暮がきて然るべきだと唸っていた。
油揚げとか油揚げとか油揚げとかと誰が見ても油揚げをねだっているので、会社の経費で
落として貰った。
あとで朝倉に聞くと経済システムから隔離された人たちにはお歳暮が届きにくいのは事実だと言っていた。
当人も顕界でお歳暮の存在を知って大変だったらしい。


取引先からもらったリンゴやお菓子、ジュースの元など持って帰る機会も多い。
休憩室においておくとみんな食べてしまうということで最近は持ち帰りが増えているそうだ。
こうしてうちの会社の年末は過ぎていくのである。