□月 ●日  No936 追う人の手記


その行動は子を持つ親としては当然の行動であると思う。


この日追った人物はある政治家の懐刀でとして充実した日々を送っていた。
しかし、その人物の息子に異変が起こったときその人物は一つの決意を固めた。
それはどこかにあるという幻想郷と呼ばれる土地に住むというとある医者に会うこと。
その医者に診て貰えばどんな病気も治るとさえ言われていた。


異変はある河童の動きで分かった。
極端に羽振りがよかったのである。 ここからは勘と見込み捜査であったが
まず金と女という基本に従い、河童の通帳を調べたところ多額の振り込みがあることが判明した。
振りこんだ者はとある研究会とあったが、それはとある政治家が政治資金を違法に振り込ませるために
作ったトンネル会社であったことはすぐに調べがついた。


河童に問いただしたところ、幻想郷の行き方を大金を支払って聞いた人物がいたという。
その資金はある政治団体から出たものであった。所謂闇資金である。
地検が追っていた事件であったが、超法規的措置と司法取引をその政治家に持ちかけた。
闇資金の発覚を恐れたその政治家は、懐刀の尻尾切りに応じてくれた。 
こういう遣り取りはあまり気分のいいものではないが今は手遅れにならないことを祈るばかりだ。


幻想郷にいる医者、確かにその医者に診せて貰うことができればその子供は助かるかも知れないだろう。
だが、その結果その子供はもっと不幸になる事実を彼は知らない。
その技術はまさに生と死の境界を弄る代物である。 死を畏れた民族が死を畏れるあまりに
生きてもいなければ死んでもいない状況を生み出すものだ。
多くの権力者がその医者に罹ることを望んで挫折してきた。 
何れも成功を目前に迫っておきながら、自らの意志で止めてきた。


政治家から一つだけ条件が提示された。生きたまま本人を逮捕すること。
それはとても難しい注文に思われた。 あの土地で我々の土地の住民が入り込めば無事では済まないからだ。
その政治家もそれを承知でこの条件を提示している筈だ。
そしてそれが可能となる人材も我々が所有していると分かっている筈だ。


幸い河童から伝えられた侵入ルートは割とポピュラーなルートであった。
現地にいる息が掛かったFがその人物の侵入を捉えていた。 
Fはその人物の水先案内人になっているようだった。
早速うちの人間を現地に向かわせる。 これで本人を確保することが出来るだろう。
手遅れにならないで良かった。


我々がその人物を確保したときには既に、その人物は諦めの境地にいた。
それも宜なるかなと思う。 Fは自分の昔話をその人物に聞かせたと言っていた。
それはその人物を思い直させるには十分だったと思う。
子供は我々の技術で最後まで面倒を看ることになった。


人間として最期を迎えさせること。 
それこそが幸せだと分かっただけその人物の行動は無駄ではなかったと信じたい。