□月 ●日  No935 啓蟄


この寒い中、虫妖怪にばったり出会う。 今日は啓蟄(けいちつ)地面で寝ていた虫たちが起き上がる日だ。
しかしこんな寒いときに無理に出たら体を壊すのではないだろうかと思う。
あまりに寒そうにしていたので在庫から防寒着を出しておく。 社員用ですこしだぶだぶしているが
それくらいが空気層ができて暖かいはずだ。


とりあえず、現地法人の詰め所で暖まって貰おうとしたら時間がないからと言って飛び去ってしまった。
上着を返して貰ってないことに気づいて後を追いかける。
といってもすぐに離されてしまうので、住民に聞いて回ってなのだがそれはそれである。


虫妖怪を追っていると秋姉妹に出くわす。 寒いこの時期は暗くなっている筈だが彼女たちもまた
寒そうにしていたので防寒着を貸すことにした。 あとで処理が大変だろうがまあ分かってくれるだろう。
少し落ち着いたところで、何でこの時期に活動しているのかと尋ねたら、彼女たちは虫妖怪に用があるらしい。
ならば同じ用件ということでご一緒することにする。


先ほどは気づかなかったが二人は何故か算盤と分厚い帳簿を持っていた。
おおよそ虫妖怪とは関係のなさそうな代物であるが、とても大切なものらしい。
二人に何をするのかと聞いたら、なんと幻想郷の食糧計画会議なるものに参加するとのことだった。
そういえば会社でそういう話があったのをすっかり忘れていた。


食糧計画会議というのは食糧自給率を少しでも上げるために、幻想郷に住む神々や生態系が協力して
より効率的に作物を作るための会議である。 秋姉妹は幻想郷にあまねく生態系や去年から参加している
例の神社のおねえさんを相手に必要とされる能力の算出を行っているのである。


会場に着くと、様々な妖怪たちをはじめ閻魔様まで同席していた。
まさに幻想郷裏会議。 もちろん取仕切るのは秋姉妹である。
ここから先は関係者以外立ち入り禁止と言うことで追い出された。
上着は一応返して貰えたが、いつまで経っても終わる様子が無いのでとりあえずその場を後にしようとする。


すると魂魄にばったり出くわした。 彼は会議の警備員をしていたらしい。
不審人物だと言われて駆けつけたら私だったらしい。 随分、厳重な警備だ。
聞けばボスもここに出席していたらしい。 ここは私みたいな人が近づくところではないようだ。
それでも殺されずに済んだのは防寒着を貸していたからだそうである。


魂魄は連中の裁量次第では飢え死にする人間も出ると言っていた。
閻魔様がいるのは、普段から行いのいい人間を助命するためだというわけだ。
急に背筋がぞっとした。


とりあえず怖くなったのでこの場を後にする。
ここで決められたこと次第では人が不幸になるのだと思って改めて
ここの恐ろしさを感じ入る次第である。