□月 ●日  No940 血族経営


阿礼乙女が証文を書いている。
類い希なる記憶力を利用して司法書士みたいな仕事も副業でやっているためだ。
中身を読むとどうやらある商家の養子縁組の書類のようである。


幻想郷の商家は血族経営になることはまずない。徹底的な実力主義が貫かれている。
そこで能力のある人は養子縁組がされて次の当主となる仕組みがあるのである。
博麗の巫女とて例外ではない。 本当の血族かというよりはむしろ後継者であると判断されるかが重要となる。
多少血が薄まっていても実力がなければ妖怪退治なんて出来ないのだ。


血族主義はむしろ顕界の方が顕著であるところが面白い。
二世経営者 二世議員 もちろんそういう家庭環境で育った場合はそこの基本ルールを学ぶことが
できることから、決して合理性がないわけではないのだが、ドライな能力主義という点は
むしろ幻想郷のほうが遙かに顕著だと思う。


面白いのは 阿礼乙女が書いている証文の中に経営者の罷免に関する内容も書いてあることだ。
この場合経営者は隠居という処理になるという。
これは妖怪が経営者になることを見越したシステムだという。 妖怪が死ぬのを待っていたら
それこそ数百年単位になってしまう。 その間に経済システムなんて幾らだって変わってしまう。
一般に企業が成長を続けるに当って 30年1スパンで大きな経済の変革があると言われている。
妖怪が経営のシステム変動に耐えられればいいが それが駄目な場合は速やかに経営者を変えることができるようだ。


香霖が独立しないといけない理由もそこにある。
だからこそ暖簾分けの形で独立する必要があったのである。
彼も彼で色々苦労しているというわけだ。


程なくして数名の男たちが阿礼乙女の元を訪れた。
きちんと封をして魔法で処理をする。勝手に開けられないようにするためだ。
それを最終的に株仲間と言われる組合に持って行って全てが終わる。
話には聞いていたが実際に一連の流れを見るのは初めてなので色々感心した。


余談だが
影に隠れていた明羅女史の視線が怖かった。