発掘船の船長といえば、昔は結構あちこちで暴れ回っていた危険極まりない妖怪の一人である。
過去形なのは聖大師様にすっかり帰依してしまっておりその教えを長い間守っていたからである。
まず恐ろしく礼儀正しい。性格は穏やかで、きつさを感じさせない。
北白河とすぐに仲良くなったらしいが、性格は正反対といっていい。
まったくもって幻想郷の妖怪どもには彼女の爪の垢を煎じて呑んで欲しいと思う。
ただあの大師様からなんと言われたか分からないが、妙に彼女の態度が恭しくて困る。
こっちは妖怪は危険極まりない存在だと思っているだけに可能な限り腰を低くして
接しているのだが、この船長と来たら私よりもさらに腰が低いと来ている。
やりづらくて仕方ない。
もっとやりづらいのはうちの通常業務をお布施の類と勘違いしていることである。
確かに言われてみれば妖怪に対する貢ぎ物という解釈も出来無くないのであるのだが
私が人間と妖怪を完全に区別していないと言うのならそれは誤解というものだ。
確かに私の知り合いには妖怪も結構いるし、仲が良い者もいる。
人間をやめたような朝倉みたいな人とは人間と全く変わらず接していると断言できる。
違う意味で妖怪だとは思っているが。
ただ一つ言えるのは私は彼女のことが別の意味で心底苦手であるということだ。
多分彼女と接触した他の社員も同じような見解だと思う。
外見の可愛らしさに騙されると、途端に宗教勧誘されるからだ。
彼女と接しているとまるでファミレスで女勧誘員と話しているような気分にさせられる。
彼女を口説こうとした社員はこの辺で悉く撃沈した。
実家がブッディストであることもあり、彼女の言い分は細かいところまで理解できる。
ただ、私としてはそこまで宗教に縛られる気は毛頭ないし、仕事柄死後の世界も
垣間見てしまったので、他力本願宗教に縛られる気も起きない。
人間にとってはとても有り難い教えのようではあるが、敢えて言おう。
私に言わせれば、人を沈める行為も宗教勧誘とそれほど変わらないと思う。
どちらも自分の価値観を押しつけるやり方に他ならないからだ。
彼女がそのことを理解できるかどうかは今のところ疑問である。
なんといっても彼女は、聖大師様の教えを1000年近く守っていたのだから。
まったくもって困った話である。