□月 ●日  No1168 天狗の高下駄


うちの会社で納品している商品の中でちょっと変わり種と言えば
天狗たちが履く専用下駄であろう。
この日妖怪の山に入山する際大量納入した。
里香女史がそろそろ冬が近いから下駄が必要になると言っていたが
まさか次の日に発注がくるとは思わなかった。
顕界の下駄職人は健在だろうか。


下駄は基本的に一本歯であり端から見ればあまりバランスが良くないように見える。
しかも歯の向きは縦横と二通りある。 それぞれ仕様用途が異なる。


そもそも天狗が下駄を履くのは、天狗たちのねぐらが急勾配の斜面であることに
起因する。
普通の登山靴を使うよりも杭を打ち込むように上れるので、滑りにくいという
メリットがある。
高下駄は彼女たちにとってはとても合理的な履き物と言えるのだ。


しかし、なぜ縦横とそれぞれ下駄があるのだろうか?
文々。新聞を書いているとかいう鴉天狗の話では、凍結した場所を滑走するのに
使うのだという。ちょうどスケートの要領だ。
つまり、縦下駄は凍結した地面で立つ為に利用しているのである。


さて、顕界の職人さんだが今まで頼んでいた人は引退して、息子が
後を継いでいるらしい。 そのあまりの腕に驚いてしまう。
いったい誰が使うのかと訪ねられたので、天狗少女の話をかいつまんで
一応、皆の常識の範囲内で説明すると、足形を持ってきてくれと言われた。
なかったら作らないと言われてしまったので、しかたなしにオーダー靴用
即席足型取りキットを幻想郷に持ち込み足型を取る羽目になった。


天狗たちもこれには少し驚いたようであるが、もっと驚いたのは
完成した下駄のフィットぶりだった。
足の形に合わせて微妙に凹凸がつけられていた。
これには天狗もびっくりしたようだ。 
外の世界の職人ではなかったら確実に押しかけられただろう。


これで予算がかからなければ文句はなかったのだが、どうやってこの金額の
帳尻を合わせるか思案したいところである。 参った。