□月 ●日  No1177 小兎姫の手記


朝、けたたましくなる電話の音で目が覚める。
特別な問題の場合、専用の着信音が鳴るのだが今日がそれだった。
外を見たら同僚が迎えに来ていた。 まだ外は暗いまま。 
薄く化粧をして大急ぎで着替え、朝食は迎えの車の中で食べる。
レンジでチンした、冷凍レーズンパンが美味しい。


局長から状況を聞く。月の民である綿月豊姫という大使がいるのだが
彼女が月から持ち出した扇子をどこかに紛失したそうだ。
扇子なんて、現地で確保するなり、一度帰還している間に探しておいて渡せばよいと
思っていたけど、実際はそんなに単純じゃない。
局長がブロークンアローと同義と言っていた。 それで事態の深刻さは大体理解できた。


綿月豊姫がなくしたもの。
それは一種のIF除去装置といわれる。 
物質の結合を解いて、標的を消滅させることができる。
月人はそれを浄化と呼んでいるとのこと。
最初の月面戦争で投入されて、妖怪達は為す術もなくやられたというお話。
物質の結合が解かれた標的はまるで風船が破裂するかのようにポンと爆発する。
後には基本的に何も残らない。 
IF除去の際一瞬発生するいわゆるチェレンコフ光がまるで風のように見えるみたい。
とにかく物騒な代物だというわけ。


我々の手で確保するのかと思ったが、扇子を見つけたらすぐに返却するように
と厳命された。 ネコババして報復されたらそれこそ間抜けな話。
というわけで霊能局一同でせっせと扇子探し開始。
観測機器も間借りして探してみる。


扇子はすぐに見つかった。
トイレに置いてあった。


早く返せないといけないので、部屋で微睡んでいる姫様に扇子を渡しておいた。
この扇子がどういうものかきちんと理解しているだろうし、色々と政治的配慮を
すれば、彼女が見つけたことにした方が何かと都合がよい。


作業が午前中で終わったので、顕界に戻って残務整理。
定時で終了。 それでも出勤時間が早かったから残業代は出ている。
帰り、理香子と合流。 ケーキを食べながら駄弁った。
朝と夜しか食べていないので太らないか心配だ。


脂肪だけ素粒子分解できないのかなと本気で思ったけど
理香子に事情をぼかして聞いたら、ピンポイントで使えるものではないと聞かされて
残念に思う。 結構いいアイデアと思ったんだけどね。