□月 ●日  No1388 冴月によるチームワーク論


深夜会社に戻ると、冴月がまだ仕事をしていた。
彼女とまともに話したことは殆どなかったのだがここでちょっと雑談を試みてみたのだが、
そこでちょっと笑える話があったのでここで紹介する。


八雲商事における妖怪達は徹底的な実力主義で構築されている。
妖怪でありながら軍隊にもいた冴月としては、男女型妖怪の待遇的差異は我慢できないところがあったらしい。
何しろ体力は屈強な男性を遙かに凌ぎ、大口径の重火器にも余裕で対応できるだけの筋力も持つ。
外見こそ、思春期相当の女性の姿をしているが行動はほとんど何処かの海兵隊のような動きである。
妖怪の実力において性別は全く関係ないと言えるのである。


そこで、隙間妖怪に待遇のフラット化を要求したそうなのだが
現地法人でテストを行ったらものの数日で元に戻ったというのである。
隙間妖怪にしてみれば、男女の境界なんて弄るのはそれほど難しくないのだろうが、
彼女がやった方法はもっと面白い方法だった。


まず更衣室とトイレを男女共用にしてしまった。 男性社員は最初歓喜の声を上げたが、すぐに収まった。
ちょっと考えれば判ることだ。若い娘、男ならいざ知らず妙齢の男女の着替えを好き好んで見るだろうか。
同じところで着替えをしろ言われても本気で困るのである。
トイレにしたってそうだ。男女用につくればコストが増えるからと理由で男女トイレの境界が取り払われると
なぜか男女のゾーンができてしまった。


給与など賃金体系の境界も取り払われたが、育児休業など女性達は取りにくくなってしまった。
残業なども公平に割り当てられたので、女性達は帰宅が遅くなった。
見ていられない人は何故か仕事を引き受けたりしたのだが、隙間妖怪が無理矢理是正させた。
一方で、女性が行っていた作業も男性も行うのでミスが頻発した。冴月も慣れない伝票作業でミスを連発したらしい。


つまりはこういうことだ。 何もかもフラットになると一見すると全てが公平に見えるが、
結局お互いが性別に甘えている部分が浮き彫りになったのである。
妖怪達も自分たちが女性の外見をしていることで色々とつけ込んでいた部分が浮き彫りになってしまったわけで
結局は隙間妖怪に懇願して元に戻させたという。


重要なことは互いに個性を補い合うことにあると言う。
だからこそ妖怪と人間が共に同じ職場で働くのでのである。その方が組織を強くできるからだ。
今回の件でチームワークの大切さを学んだと冴月は言う。


もう少し仕事をしてから帰るという冴月。手伝うかどうか尋ねたら、明日休みだからと言われて
結局断られてしまった。書類をちらと横目で見ると色々危ない兵器についてのレポートがあった。


結局、自動販売機で飲み物の差し入れだけして帰った。