□月 ●日  No1389 安くなるのはいいことだ


月の都と大っぴらに取引が出来るようになってから、月面行き列車のアップデートが目まぐるしい。
まず、居住性が高くなった。余計な物が減ったからなのだが、岡崎の話では幾つかの物が
月のテクノロジと入れ替わったという。
それほど列車を改修したら予算が無くなるのではと疑問を投げかけたら却ってコストが安くなると言われた。


宇宙開発というのは予算との勝負であるのだが、コスト削減のために最も有効な手立ては
重量の削減であるらしい。 重量が減ればその分燃料が減るわけだから当然である。
これは輸送列車であっても同様で、いくら幻想のエネルギーを用いても燃料費はそれはなりに掛かる。
空間軌道を用いたとしても、結局推進力を得るための費用は殆ど変わってないのだ。


幻想の月ロケットの応用や隙間を用いた空間湾曲のプランもあるが、こちらもコストは決して安くない。
住吉三柱神などという不安定な推進システムを利用するのは自殺行為だ。
一回ならいざ知らず、何度も行き来することが前提の列車ではとても使えない。
空間湾曲については一見するとローコストだがこちらも不安定なシステムだ。
まず着地地点がいまいち定まらない。信頼性がいまいちである上に大質量を移動できない制約がある。


岡崎の話だと列車の質量を2キロ減らせば、その金で列車を一基更新できてしまうらしい。
劇的にコストが減っているそうなので今後は予算が減るのではないかと戦々恐々しているという。
恐らく、宇宙関連の技術者を増員するだろうという話しである。


しかしながら違うコストも増えているらしい。
月兎たちを移動する際、居住性が上がったためこれまで我慢していた環境面の不満がここにきて
噴出しているのだという。
今の月ゆき列車はレクリエーション施設や酒屋専用の車両を付けないといけないらしい。
現状では、コストダウンの方が設備投資の額を上回っているが、今後は予算枠の確保が大変だという。


先日乗った新しい月面列車は、殆ど幻想郷行きの列車に近い作りになっていた。
もちろん緊急用の装備はそのままであるがそれ以外は殆ど普通の列車である。
技術革新の早さに驚きつつ、コストダウンで作りが荒くなった椅子に腰掛けて
仕事に励む日であった。