その日はムラサ船長が腰を抜かして震えているところを目撃したところから始まった。
船長の視線の先に目を移すと、妖精の服装をした大師様の姿があった。
私が平然としているのを見たムラサ船長が意外そうな表情で見ている。
「なぜ平然として居られるのだ?」と。
ムラサ船長には言えない。 朝倉があまり暑いからと氷妖精の姿になって、あっちこっちを
凍らせたなんて言ったら笑いもの確定である。
そんな姿を目撃してる身としては大師様が三月精のコスプレをしていてもあまり驚くことはない。
そんな私の考えはいざ知らず私のことを肝が据わっていると感心する船長。
あまりにシュールな光景である。
魔法で妖精の力を再現するのはとても難しい。
妖精の力というのは、一見すると弱いように見えるが運用方法が誤っているからだとノーレッジ女史から
聞いたことがある。 エネルギー自体は妖怪に対しても比較にならないほど大きい。
それらを正確に制御できるようになったとき、妖精は妖怪になれるとも言われる。
だから制御を楽にするために服装を妖精に合わせるのは当然至極のことだ。
朝倉でさえ難しいというのだから大師様だって骨が折れるのだろう。
三月精の一匹の姿をした大師様になにをしたいのかを尋ねる。
やはりテストのためにその姿をしているそうである。
それを聞いた船長がほっと胸をなで下ろしていた。
朝倉が同じ事をしている事実を話すべきか本気で悩む。
表情がこわばっている私を船長が心配そうにみている。
言えるわけがない。自分の身内がおなじことをしているなんて。
結局見かねた一輪嬢が雲山を行使して、自ら日傘になることで暑さは大分弱まったわけだが、
上昇気流が少ないためか大分サイズが小さくなっていた。
それにしても、古代魔法使い同士で妖精のコスプレをしているのは色々目覚めが悪いものを
見てしまった。 当面トラウマになりそうだ。