□月 ●日  No1433 混ぜるな危険


鵺から、元気のない妖怪がいるのでなんとかしてくれという連絡が来る。
そもそも元気のない妖怪をどうにかするのは私の専門ではないのだが、嫌な予感しかしないので
無視するわけにも行かず言われるがまま、その妖怪の前まで来たのだが。
命蓮寺すら手に負えないと匙を投げた妖怪の正体は応援妖怪「オレンジ」だった。


オレンジの能力とは応援することである。
応援するのは良いが自分が持つポテンシャル以上のものを無理矢理引き出すのと同義である。
それは体調が悪いときの点滴みたいなもので、確かに一時的な体力になるのだが
その状況を続けられるわけがなく、却って相手を破滅させてしまう場合があるのだ。


まさに今がそうだった。
この糞暑いさなか無理に力を引き出せば何になるのか?
熱中症だ。 ただでさえでも暑いのに無理をさせれば倒れるのは当然。
そんなわけで応援していた妖怪や人間がそろいも揃って病院送りになったことで
さすがのオレンジも妖怪としてのアイデンティティが失われる危険があったというわけだ。


妖怪にとってこれは致命的なものだ。
下手すれば存在に関わるほどのものだ。
彼女のアイデンティティをどう回復するか智恵を貸してくれと言われたが、そう簡単に
彼女を元気づけられるとは思えない。


八方塞がりだと思っていたところに自称現人神を発見して呼び寄せる。
応援妖怪の窮状を伝えると、任せなさいと言ってくれた。
彼女の考える手段は毎回常識にとらわれないが、毎回実効性の高い方法を提案してくれる。
彼女にとっては、欲しいものを手に入れられるチャンスでもある。
外の世界のものを手に入れるのは隙間妖怪によって制限されているが、こういう案件で
うまくやると欲しいものが貰えるのだとか。


なぜか自称現人神はオレンジを自宅に連れて帰るのだという。
とりあえず変なことをするなよとだけ言っておいた。
戻ってきた彼女は、さらに暑苦しくなっていた。
応援の仕方が所謂踊りによるものだったのが、なんか無駄に叫ぶ内容へと変貌した。


「頑張れ頑張れ」「負けるな怠けるな」と絶叫するオレンジを見て
とりあえず一体何を見せたのか自称現人神に尋ねる。
映像ディスクのタイトルには無駄にテンションが高いあの応援芸能人の名が踊っていた。


混ぜるな 危険。