□月 ●日  No1492 甘粕の回顧録(番外編)


昔の話をしよう。それは地霊達が恐れられていた時代の話。
当時旧地獄は危険極まりない場所として認識されていた。
もちろん、現在も危険な場所であることは間違いない。


今でこそ八雲商事のスタッフが地底で物資供給を行い、東風谷早苗が地底で活動できたりしているが
それを可能にしたのはある先人がいたからだ。
彼が居なかったら、博麗霊夢が地底に潜るときに通信装置のみと言う極めて軽装で臨むことなんて
八雲紫魅魔も赦さなかっただろう。


彼の名前は東村。現在は八雲商事で経理部に勤めている男だ。
奴は地霊殿や旧地獄が取引先として妥当か調べる為に数人の部下を連れて地底に乗り込んだ。
今にして思えばどうやってそれをやったのか分からないが、彼には思いつきを現実にできるだけの
強力な実行力があった。


地底は安全なのかと言われれば答えはNOだ。
地獄だった場所である故に、罪人の霊魂はあちらこちらに漂い憑依の危険もある。
地霊殿に至っては、人の心を読みとり強力な精神攻撃をすることができる妖怪が存在している。
法界では人間に仇成す恐ろしい僧正が封印されているという専らの噂だった。
それは半分正解だったが半分間違っていることを証明したのが東村だった。


東村に同行して地底を探索するのは一種探検であり、冒険であったといえる。
当時未完成だったスペルカードエンジンを携えて、多少の弾幕戦は可能だったとしても
今にして思えば随分と無茶をしたものだと思う。


地底に潜った我々を待っていたのは、咎人の御霊だった。御霊は我々を囲んで自分の所業を
告白していく。我々の動揺を誘い肉体を奪う気なのだろう。
しかし東村は平然としている。それが他の部下の心の支えであった。
彼は口を開きさらりとこう言った。


「ざまぁ」


咎人の御霊は我々の周りから消え去った。動揺を誘うどころか一笑に付されてしまった。
それこそ彼らにとって最大級の精神攻撃だと知ったのは後の話だ。
同時に地霊達に対し、対抗手段を得た瞬間でもあった。


これも後で知ったことだが、彼は元々大学の教授であり、民俗学の教鞭を振るっていたらしい。
最初から彼には地霊に対する情報を収集し一定の目処を立てていたのだろう。
この事実は一般人でも対処方法さえ分かっていれば地底へ冒険できることを示す重要な証拠となった。
霧雨魔理沙が地底に潜ることが可能だったのは東村がいたからだ。


誠に遺憾ながら。