□月 ●日  No1510 カップギアス


香霖堂。 外の世界の品々を置いている店であると共に、八雲商事で取り扱いにくい
正体不明のアイテムを取り扱っている場所でもある。 


この日森近霖之助はいつになく複雑な表情をしていた。
私の姿を見てこの焼き物をどう思うと言われて見せられたのは4つのマグカップであった。
それぞれ「E」「O] 「L] 「V]と書かれている。
森近霖之助の話では強力な「ギアス」の魔法が掛かっているのだという。


ギアスとは束縛の魔法だ。 よく呪いのアイテムは廃棄できないように
こうした魔術をセットで掛けておく。 呪いのアイテムは慢性的な効果をもたらすために
簡単に手放せないように設計されているのである。
非常にいやらしい設計であるが、発想としてはとてもオーソドックスである。


この四つの文字にどんな意味があるのかと尋ねられたので
「L」「O」「V」「E]に文字を並び替えて「愛している」という意味だと教えた。
森近霖之助も納得してうんうん頷いている。
異性を束縛するマグカップと言ったところなのだろう。
こんなものが送られてきたら結構ひとたまりもないのではなかろうか。


一体誰が持ってきたのかと尋ねると、うちの会社の職員であることが告げられた。
何故か周囲を気にしているのが印象的だったという。
強力な呪いが掛かっているので厳重保管せよと言われたのだが、確かに呪いのアイテムではある物の
厳重保管するほどでもないのではないかと思ったようだ。


仕方ないので、当人に電話連絡して聞いてみると、ある日突然誕生日でもないのに
送られてきたのだという。 こんなことをする人は一名しか心当たりがない。
ぶっちゃけ明羅女史だが、なんとも恐ろしい物を送ってきたと思う。
しかし、香霖堂に置いていったらあとで修羅場になるのではないかと思ってならない。


このアイテムは呪いのアイテムだ。捨てようとすればペナルティが待っていることくらい
一般のギアスが掛かったアイテムにまつわるフィクションを読めば直ぐに気づくことだろう。
とりあえずこの同僚も長くないなと思ったのは言うまでもない。 南無南無。