□月 ●日  No1825 -No1811 Rev-


モーガンは取調室の中で自問自答していた。
自らが駆る飛行物体 フライングホットケーキがいとも容易く破壊されたことを。
自分が攫おうとした人物 岡崎夢美が想像を遙かに超えた戦闘能力をもっていたことを。


気がついたときには無数のロケットが付いた巨大ドリルがホットケーキの胴体を貫いていた。
逃げることができない摩擦熱がまるで銃火器におけるホローポイント弾のように
内部を破壊。まるで中から閃光が迸ったようであった。 リモートコントロールで動かしていなかったら
中は大惨事だった。


もっともその時には周囲も大惨事だった。謎の物体につぶされて必要充分に用意した筈の
屈強の男達は全く動けなくなっていた。いや、その気になれば戦闘不能ではなく殺すことも出来ただろう。
相手は自分たちを戦闘不能にする程度に手加減することができたのだ。
こんなこと、話に聞いていない。 モーガンは毒づいた。


もちろん応戦しなかったわけではない。いや、そもそも個人を攫うための行動ではなかった。
本来の任務を忘れて、黒服の男達が彼女に発砲したがトリッキーな動きをしている岡崎夢美に
当たるはずもない。いや、これには幾つかの語弊もある。 男達は彼女に発砲しようとしたとき
一瞬動きを止めてしまった。 十字架の姿をした謎の物体が彼女の楯になるように飛来していたのだから。
いくら訓練を積んだ人間であっても宗教的オブジェクトを破壊するのは当然気が引ける。


岡崎夢美は八雲商事に在籍している技術者の筈だった。しかしこれは何だというのだろう。
羽交い締めにしたはずの体は姿が変わる瞬間にすり抜けられた。
最初彼女が消えたと思った。不自然な影を見てまさかと思い上を見上げた。
逆光でそれはシルエットにしか見えなかったが、衣服は異形としか形容し難く、
それが魔術師としての戦闘服だと気づくまで時間が掛かった。


こんな筈ではなかった。どこでどう間違えたのか。
この任務は、八雲商事に在籍している技術者を攫うことではなかったのか。
必要な人員は配置しているし、すぐに領空から逃げ出せるよう、光学迷彩で身を包んだ飛行物体が
待機していた。 気がついたときにはものの数分でこの国の領空から飛び去ることができた。


我が国の諜報部が幻想郷と呼ばれる土地の中で非常に危険な人物が目覚めようとしている問題について
自らの手でその土地に向かうためには、どうしてもその人物の技術が必要だった。
モーガンは彼女がただの技術者であると教えられていた。
それが結局誤りだったのである。


目の前に霊能局に在籍しているという取調官が資料に目を通しながらコップの水を口に運んでいた。


彼女の口から驚くべき発言を耳にしてモーガンは思わず耳を疑った。
「共闘しましょう。」