□月 ●日  No2052 晩餐会


この話は伝え聞いた話であるから話半分で聞いて欲しい。
八雲商事がもうちょっとおおらかだった頃、社員で慰安旅行に行くことになった。
妖怪の社員達が飛行機に一度乗ってみたいということになって、たった一時間程度だがフライト
することになったのである。


運が悪いと言えば運が悪いと言えるかも知れない。まもなくこの飛行機はハイジャックされた。
一つ言えることはこのハイジャック犯はどうしようもなく不運であるということだ。
八雲商事社員ばかりが乗るこの飛行機を何を考えたのかこいつはハイジャックした。
人数はそれなりにいるし、それなりの組織力 それなりの武装である。
普通なら確実に成功しているだろう。


それは粛々と行われた。脅し文句 そして銃声。
今時ハイジャックなど、あまりに効率が悪いことは皆知っている筈なのに
彼らは何が目的なのだろうか。 皆が一様に戦慄した。 
一人の男性が立たされる。そのまま男を前方に歩みを進ませると、背後から銃弾を浴びせた。
前方へ倒れ込む男性。


悲鳴はでなかった。


彼らは気づくべきだった。ここで悲鳴が出なかった事実に。
そして男は平然と立ち上がり、
「もうよろしいでしょうか」と尋ねた。
ハイジャック犯は無言でただ頷くばかりだった。


「いやあ、まさかこんな催しまで用意しているとは。」
「久々のご馳走ではないですか。」
「会社もなかなか粋なことをしてくださる。」


周囲から漏れる声。 
悲鳴があがったのはハイジャック犯のほうだった。ようやく事態を飲み込めたと言えるかも知れない。
もう一人が乗客の一人を撃った。
弾は、乗客まで届かず、途中で速度を奪われるとその場に落ちた。


結局、ここにいた誰もが会社が用意したハイジャック犯で、普段味わえない恐怖の感情を
喰わせてくれたと思っていた。
ハイジャック犯が自首したのはその直後で、私はと言うと、幽霊を見たというハイジャック犯の
インタビューをテレビで見て、これ俺たちだわと技術の人間に言われてお茶を噴きだ次第である。