□月 ●日  No2245 工業化困難


幻想郷においてどうにもならないことがある。それは工業がほとんど芽吹かないということである。
幻想郷を分離した段階で工業施設を作らないという密約があったからという意見もあるが、割と事情は単純のようだ。
一つは余剰生産物を売りさばくような市場が足りない点、さらに工業化につきものの汚染物質の処理手段が
足りないことが挙げられるのである。


もう一つは廃棄物の問題だ。こちらの方がむしろ深刻でもある。
基本的に幻想郷ゆきの物質というのは片道で処理される。もっともそれだけでは幻想郷がごみの世界になるので
その点の辻褄を合わせる仕組みは存在するらしい。
特に汚染物質の処理は幻想郷の運営において頭が痛い問題と言えよう。なにしろ、つい最近まで汚染物質の処理手段は
希釈しかなかったからである。
通常なら工業施設は海岸に設置される。そこに高い煙突を立てれば煙が海に向かって流れ出して希釈されるという
理屈である。しかし幻想郷はそうはいかない。工業施設をつくろうものならたちまち公害と向き合わざるを得ない。
しかも公害で汚染されても住民には移り住む場所がない。工業化可能な領域はたちまち限られる結果となる。


結果的に幻想郷は最近まで満足な工業化ができないままだった。汚染物質の処理機構がはっきりした時期になって
ようやく工場が建設されるようになったと言える。一部工業施設の実験があったときは、隙間に放り込んでいたというから
頭が痛くなる話である。


それでも幻想郷で大量生産のメリットはあまり発揮されることはない。
市場が足りないのだ。それでも妖怪たちの雇用のためだったり、いろいろな理由で小さな工場はつくられることはある。
ごみの処理プロセスはかなり大変であるが、それでもどうにかしないとならないというのが隔離された土地の
宿命というべきではなかろうか。