□月 ●日  No3037 ダイブ


 有江さんの店である人物を待つ。かつての職場の同僚である彼女は今でも一応の交流がある。
 お互いに知りたい情報を共有しているともいう。
 その相手から開口一番出てきたのは「この女誰」だった。
 こちらは彼女が誰なのかを知りたくて来たのだが。


 その相手に現状の事態と、魂魄に襲われたことを話す。彼女に余計な隠し事はしない。
 実は契約違反なのだが、そんな事を言っていられない程度に事態は深刻である。
 彼女は大きなため息をついて答えた。彼女はこちらで引き取るという。
 当然反対するのは雷子である。こちらは依頼人の意思を尊重するしかないので
 同様の答えを出す。


 すると彼女は無言で紙切れ一枚を手渡した。
 傍から見れば記号にしかならないそれは彼女が仕事で使っているクラウドストレージのリードオンリーの入場パスである。
 自分自身かつてここにいたからこそわかる話だった。
 この仕組には重大な欠陥もあるのだが。


 事務所に戻って、このパスをまずテキストエディタに書き出す。
 一文字でも間違っていたら一発で不正侵入がばれるので慎重だ。
 しかもこのパス IDもパスもご丁寧に250文字で構成されている。
 通常は持ち物とかに入れているやつである。これでも一番セキュリティレベルが低いクラウドストレージなのだ。


 深夜までかかって文字を全部間違いないか確認。
 雷子がダウンしているところ、疲れた体に鞭を撃ちいざストレージの中へ。
 ご丁寧に必要ファイルだけ整理してあるフォルダを複製して任務完了。
 あとは雷子が見ていないところで中身を確認するだけである。