●月 ●日 No 129 逃げた先に理想はない


幻想郷というところは天国ではない。 人間は容易に捕食されるし、安全性でいえば外の世界のほうが
いくばくかはマシである。
それでも覚悟が出来ている人は行くことを止めはしない。
外から来た人間の運命は非常に過酷である。 幻想郷に住んでいる人間は捕食されないので、
その矛先はすべて彼らに向かう。
まず彼らは通信を試みる。 実は専用回線があるのだがそれ以外は外の世界と断絶されているから
当然通話はできない。
運よく町にたどり着いたとしても、福利厚生はあくまで幻想郷に住んでいる人対象である。


私が納品にいく娼館には、外の世界から来たという女性がたくさんいる。 
中には物好きな妖怪もいたりするのだが、外の世界の商品を見た女性がメモで「助けて」と書いて手渡すも、
残念ながら彼女たちを助けることはできない。
彼女たちは自殺しようとした人間だったりと、たいていの場合自ら神隠しに遭うことを望んでいる者ばかりだと言われる。


幻想郷の食事は味が少ないことは前に言及した。 私のような人間は調味料一式を常に持ち歩いていないといけない。
そうした食べ物を食べられずに、衰弱して死んでしまう者もいる。 現地の人に運よく介抱されても生きる力がない人間は
幻想郷にいる資格はない。
私も調味料一式を使う頻度は随分減った。 お陰で外の世界の食べ物が口に合わなくて困っている。
外食はもってのほかでしょっぱいやら甘いやらで食えたものではない。


今の世界に打ち捨てられたものだけが幻想郷にいくことができるという。 私に言わせればそれは逃避でしかなく
逃避した場所が天国であるかといわれれば、希望だけはあってもそれ以上を期待するのは大きな間違いであると思う。
それよりも今生きている場所で全力を尽くすこと。 それが境界で働く私にとって大きな教訓となっている。