○月 △日  No361 花に追われた恐竜


ヴィヴィットの学習と社員研修を兼ねて朝倉講師で
カンファレンスが開かれた。
妖怪の能力がいかに強大で危険かを説明するためのもので、
一ヶ月に一回は開催されている。


今日の話題は"風見幽香"である。
うちの会社作成の危険度ランクでは隙間妖怪と同等という恐るべき存在だ。


彼女の一挙一動は生き物の運命を揺さぶり続けている。
楽園をつくるときもあれば、試練を与えることもある。その挙動は龍神に近いのでは
ないかとさえ思われる。
その最たる例は恐竜の絶滅である。 仮にも龍という言霊をもつこの巨大な生き物を
絶滅させたのは彼女だというのである。
隕石によって恐竜は絶滅したと思っていたが、それは恐竜という種に止めをさしたに
過ぎないという。


もちろん彼女の力だけで恐竜を滅ぼしたのではない。
彼女は長い時間をかけて味方をつくった。 それは虫たちと哺乳動物たちである。
花と果実を武器に彼女は恐竜たちの生息域を北へ北へと押しやっていった。
そして隕石の衝突により、恐竜たちはとうとう絶滅したのである。
その後、恐竜たちのたちの子孫である巨大鳥類が現れたが、彼女がもたらした果実で
力をつけた哺乳動物により巨大鳥類は駆逐されたという。


彼女は何者もなし得なかった龍殺しをやってのけた妖怪だったのだ。
こうなると彼女が基本的に生息域からほとんど動かない理由も理解できる。
彼女との接し方も説明されたが、その内容は投げやりなものだった。
機嫌を損ねないように注意しろとも言うし、そう簡単には怒らないとも言われた。


こっちは仕事をしているのだから、何をしたら怒るか教えてくださいと言ったら
朝倉はありえないぶりっ子の表情で「だって私も怖くて数えるほどしか会ってない」
と言った。 それでも上司か。 
魂魄が「危険な妖怪を担当してもらえるのは信頼が厚い証だと思え」と
フォローを入れてくれたが、一度会ってみたいというヴィヴィットの姿を尻目に
私はただ机に突っ伏した状態になるしかなかった。