○月 △日  No379 月をめざして


香霖堂のところへ挨拶に行ったら、店主が欠伸ばかりしているので
ハリセンで軽く殴っておいた。
どうやら深夜に香霖のところへ本を買い求めた連中がいるという。
大体の犯人は見当がつく。


買い物に来たのはおそらく紅魔館の連中だろう。
ロケットの写真集を手に入れて満足そうに帰って行ったらしい。
実は紅魔館にある図書館にはロケット工学に関する書籍も多数あるのだが
彼女たちはそのことに気づいていないようだ。
簡単でわかりやすい資料を用意してそれを形だけでも模倣すれば
良いと考えているのだろう。
もっとも書籍を見つけたところで彼女たちに技術的
バックボーンなんて物はないのだが。


もちろん幻想郷ではそうした形でロケットを作ったとしても
それを強引な手法で飛ばすことは可能である。
たとえば、ヴァンパイアのお嬢様が投げ飛ばすとか、
霧雨のご息女を捕獲して八卦炉をノズルの代わりに利用するとか
いろいろありそうではある。


実は妖怪たちの一部は戦争の後も何度となく月への到達を目指して
いずれも失敗に終わっているらしい。 
妖怪と月の戦争を知らない新参の妖怪が月に対する憧憬から
そういう行為に至っているようだ。
大砲を使って月を目指した妖怪は結界によって擬態された月の姿に大いに
満足して帰った記録が残っている。
月の結界とやらもなかなかのものようだ。


朝倉が古い友人から「月へ一緒に攻め入らないかと言われたが断った」
と言っていた。
ボスが意地悪そうな表情で、「よかったら遊びに行ってもいいんだよ」と
言うと、朝倉は嘆息して「冗談」と言って肩をすくめていた。