■月 ○日  No402 困った無縁塚


無縁塚といえば、幻想郷にとってはとても危険な場所とされており
一般市民および妖怪の皆さんは立ち入り禁止となっている。
結界がゆるんでいる場所でもあり、結界の外の人間も迷い込みやすい。
その風景から初めてここを訪れた人はここを「桃源郷」などと呼んでいるようだ。


私に言わせればここは特に精神的に極端に繊細なひとたちの
たまり場といったところか。
結界の外からやってきた人間が無縁塚に行ってもたいていは
桜の美しさに心奪われるのもつかの間、人恋しくなって人里に向かうか
中有の道に向かってしまう。
実際のところ、外の人間でも幻想郷に適応できる人間はさっさと
行くべき場所に行ってしまうのだ。
結果的にその筋のひとたちだけがここに残る。
阿礼乙女がここを危険と書くのも何となく分かる気がする。
何というか近寄りがたい雰囲気があるのだ。


ここの住民にとって自分と近しい人間がいるということは
とても居心地がいいものらしい。
連中はしばしば自分の世界に入り込み始末の悪い存在となるが
干渉しなければまず害にならない。


そんな彼女たちに積極的に干渉する馬鹿がいる。
鴉天狗たちだ。 ここの住民が生み出す独特のセンスは商売になるらしい。
危険と隣り合わせだが、逃げ足も速い天狗だからできることだと思う。
で、私はというとその天狗にメモ帳とペンを配達しにきたのだ。


住民のカオスすぎる戯れ言や発言を活字にしてそれを、幻想郷や
結界の外で売りさばいたりしているようだ。
携帯端末でかかれた彼女たちのつくる小説は文法がハチャメチャだが
人気はあるらしい。
試しに読んでみたら自分にはまったく理解できない世界が広がっていた。
疲れるだけなので淡々と業務を済ませて、ゴミ漁りをしている香霖を
尻目に帰社してしまった。
無縁塚にも営利主義を持ち出す幻想郷のたくましさには呆れるばかりだ。