△月 □日  No484 夜ばいの文化


幻想郷における夜の風物詩と言えばやはり夜ばいである。
幻想郷の建物には鍵なんてついていないので、その気になれば気に入った人に
夜ばいを仕掛けるなんてことは日常茶飯事である。


と、言っても夜は妖怪が跋扈するのでむしろリスクが高いと思われる人も
いるかもしれない。 だが実際は妖怪自身が恋のキューピット気分で
夜ばいを手引きするというなんとも情けないことが起こる。


仕事が深夜にまでもつれ込み社員寮へ帰ろうと街を歩いていたら
ちょうど妖怪同士の小競り合いを目撃した。
どうやら女性の側も知り合いの妖怪をボディーガードとして雇っていたらしく
ほどなくして弾幕ごっこが始まった。


町中の弾幕ごっこは迷惑以外の何者でもない。 さっさとこの場を離れようとしたら
近くで男の悲鳴が鳴り響いた。 そしてどこかで聞き覚えのある声
一生懸命思い出すまいと頑張っていたのに、目の前に現われたのは
逃走する男と、服がはだけた里香女史の姿だった。


仕方なく事情を聞くと、里香女史と男が狙っていた女とで入れ替わったという。
二重の罠を仕掛けていたようだ。
「可哀想にラフレシアに飛び込んだか」と聞こえないようにぼそりと言ったら
里香女史にしこたま殴られた。


髪がほどけた里香女史の外見は決して悪いわけではない。 個人的にはむしろ
水準以上と言っても過言ではない。
男が里香女史に手を出さなかったので、里香女史がキレて男に襲いかかったようだ。
男に何故そのまま襲わなかったかと聞いたら、なんと大きな声で想い人でないと嫌だと
叫んだではないか。 私は驚いたが里香女史は分かっていたかように手をぽんぽん叩く。


里香女史が指し示した先には男の想い人がいた。
弾幕ごっこをしていたはずの妖怪たちはすでに戦いを中断していた。
ここではじめてこの件の全体像が見えた。 みんなグルだったのである。
二人の様子を里香女史は満足そうに頷くと「帰ってよし」と言われてしまった。


私はどうやら殴られる役だったようだ。 
自業自得ではあるが今一釈然としないまま帰路についた。
とにかく今はとにかく二人の幸せを祈るばかりである。