□月 ★日  No555 人間相手の商売に思う


幻想郷に住んでいる人間が常にまともな奴らかというとそれは絶対にあり得ない。
私が知る限り幻想郷の人間も顕界に住んでいる人間も、その文化こそ違っても
その根っこは変わらないと思う。


私はたまにマーケティングリサーチをかねて霧雨店の手伝いをしているのだが
そこの客も一癖もふた癖もある奴らばかりである。
商品を配達したときのこと、いつも配達している家で野菜を届けたところ
普段あまり外にでないという息子さんが応対してきた。
その段階では別に何も変哲もないやりとりだったのだが
「お母さんによろしく」と言った途端態度が豹変し、いきなり殴りかかってきた。


何が起こったのか分からず仕方なしに姿を隠してやり過ごしたが、どうしても納得いかないので
上白沢に相談したら、その息子さんは極度のマザコンだったらしい。
こうした人たちは、自分がマザコンと指摘されるのが恐ろしくて、「お母さん」をトリガーに
襲ってくるという。 言霊に反応する妖怪みたいな動きだ。
上白沢にも襲いかかったのかと聞いたら、頭突きで撃退したと言っていた。 
違う意味で恐ろしい話である。


霧雨店でお手伝いをしていると、やっぱりいるのがクレーマーである。
その手口や、発言内容も顕界のクレーマーと殆ど変わらないのだから笑ってしまう。
自分の要求ばかりを主張して相手の言い分には一切耳を貸さない。 ありがちな話だ。
金銭目的のクレーマーや人格障害のクレーマーもいてやっぱり商売の基本は変わらないことが
よくわかる。


この日も誠意を見せろとわめいている金銭要求型のクレーマーを発見する。
クレームの内容が当店が原因かどうかを客観的に立証できない限りは
解答しかねると突っぱねることが基本である。
この「誠意」も難しい。たとえば江戸妖怪の場合は誠意は額面どおりの「誠意」なのだが
上方妖怪の「誠意」は金銭のことを指している。 そこの判断を誤ってはいけない。 


クレーマーに出くわしたらとりあえず天狗を呼ぶのが一番だ。
ギャラリーの視線や第三者的な突っ込みはクレーマー達を黙らせるのに最適だ。
天狗達はトラブルを見物するのが大好きなので、ちょっと教えるだけですぐにやってくる。
ちょっとでも天狗に喧嘩を売ったら病院送りになるのは喧嘩を売った側だ。


このように幻想郷だろうがどこだろうが、人間相手の商売では基本的なノウハウは
殆ど変わらないのものだとつくづく感じる。 それは人間ならではの業ではないかとも
思えるのである。