□月 ★日  No564 涅槃会(ねはんえ)


幻想郷の仏閣が忙しくなる日。 今日はお釈迦様の命日である涅槃会の日である。
この日阿礼乙女の家から運ばれるのは涅槃団子と呼ばれる団子である。
これを食べると無病息災で過ごせると言われる。 
幻想郷では謂れの力が本当に力を見せるのでこれを食べない手はない。


実は明羅女史がバレンタインイベントで作っていた団子は、この日のために作っていたものである。
彼女にとってはもののついでと言ったところなのだろう。
餅つき二日目ともなると街の男どもでは人手足りず、永遠亭付近に住んでいる兎たちも動員している。
流石は兎たちは普段から餅をついているためとても手慣れている。
幻想郷でアイドル格と言われる八百万のカミを讃える歌を歌いながらせっせと餅をついている。


法要は冥界と連絡を取りながら執り行われる。冥界にも団子は届けられ大半は白玉楼のお嬢様の
胃袋に入ることになっている。 
冥界に直接作用する法要ということもあり、会社の面子も何人か白玉楼で団子を食べながら
ことの成り行きを見守っている。 死を扱う大規模なイベントでは冥界監視は必要不可欠である。
まれに結界にほころびができて色々とトラブルを起こす原因となるからだ。


仏閣には沙羅双樹の下に横たわるお釈迦様の絵が描かれた「涅槃図」が飾られていた。
その美しさに息をのむ。 死ぬことを悲しむのではなく、あくまでそれを事実をして
受け止めなさいとも読める。
普段、生きている者死んでいる者の境界が見えにくい幻想郷では、死もまた生のプロセスの
一部かも知れない。


厳かな雰囲気での法要が営まれたあとは涅槃団子のフードバトルである。 
兎たちは普段と味が違うと言っているが、餅に味なんてつけるのだろうか
きっと永遠亭では違う作り方をしているに違いない。
途中からは鬼娘も乱入していつものように酒盛りが始まってしまうのは幻想郷ならでは仕様という
ものであろう。


極度の疲労か明羅女史と阿礼乙女は早々と就寝、結局後片付けのお鉢はこちらに回ってきた。
酒臭い妖怪たちを運びつつの作業である。
冥界はあっという間に解散したらしい。 何しろ食べ物という食べ物はみんな白玉楼のお嬢様が
食べてしまうためゴミが殆どでないらしい。
今年は結界も安定していて無事法要が終わってくれた。 毎度トラブルばかり起こってはたまらない。
何事もないというのはいいことだ。