□月 ★日  No565 妖怪と傭兵


会社が久しぶりに暇である。 たまに来る問い合せ以外はあまり仕事がない場合
ボスは欠伸をしながら新聞を読んで、朝倉は椅子に腰掛け船を漕いでいる。 仕事しろよ。
北白河は黙々と伝票作業をしている。 岡崎は資料の作成。
魂魄は刀剣の手入れ、冴月は銃を分解してクリーニング。
浅間はビールを呑みながら台帳チェックをしている。
お酒が入っているのに彼女の仕事は性格無比だ。
北白河と気が合うらしく、岡崎と三人でつるむことも増えているようだ。


あまりに暇なので雑談に興じることにする。
妖怪の中には未だに人間の味が忘れられないでいる輩もいるわけで
そういう妖怪たちは普段どのような場所にいるのかという話になった。


人間を意地でも食べたい妖怪たちは何処へ行くか? 冴月曰く紛争地域か国境警備隊
相場が決まっているそうだ。 警告なしに発砲できるのが望ましい。 物騒な話だ。
敵兵の死体を見つけたら獣へと姿を変えて喰っていればまず怪しまれる心配もない。


と、言っても彼らはとても大変な生活を強いられる。
所謂傭兵になった妖怪たちは旅費も自力で稼がないといけないし、銃や火器の類も自分で
買いそろえないといけない。 
そもそも正規兵を雇うお金がない国が傭兵を雇うのでお金だって大して貰えるわけではない。
バケツに入ったお金を手づかみで取ってお仕舞いとかはザラである。
足りないお金ははアルバイトをしたり、いかがわしい仕事に手を染めて手に入れる。


それでも妖怪たちは合法的に人間を食べることができるという大きな魅力があるため
文句を言う者はいない。 こうした妖怪たちは幻想郷に送ることもできず、
妖怪たちの資本で支援することもない。いわゆるはぐれ妖怪として認知されているらしい。
我が国でも霊能局がはぐれ妖怪が起こす犯罪行為を未然に防いでいるらしい。


最近では大量殺戮兵器や空爆ばかりで満足に人間を食べることができないということで
幻想郷で第二の人生を送ろうと考える妖怪が後を絶たないらしい。
そのたびに霊能局の人がここにやってきて相談事をしている。 治安の問題はどうか
犯罪行為を起こさないか検討を重ねるわけだ。
彼らは血税をただ消耗しているわけではないのである。


それに引き替え我々はと言えば、せんべいをぼりぼり囓りながら惚けた顔をしている
ヴィヴィットの顔をまじまじと見て、うちの仕事は平和な仕事だと感じ入る次第である。