幻想郷には少数ではあるが電気が通っている建物が存在する。
今日はそういった建物の室内配線を点検する日である。
数十名の河童と我々のスタッフが集まって手分けして作業するのだ。
顕界では室内配線を外部の業者が点検するのは考えられないことだろうが
幻想郷では明治時代の電気行政が生きている為、このような仕事が存在する。
そもそも幻想郷にとって電気とは顕界における魔法みたいな存在だ。
存在すると分かっていても複雑怪奇と考えられていて、妖怪たちも住民達も
扱おうとしない。 それが幻想郷における電気設備普及の遅れの主な要因にもなっている。
そこで時の明治政府は室内配線も電気会社から貸与されていると規定していた。
ちょうど電話機の加入権に近い考え方と言える。
このルールは今から半世紀前まで確かに存在していた。
そして現代でも顕界ではブレーカー工事などが聖域化されている。
作業はブレーカーの確認から漏電の確認などさまざまだ。
電球の類も交換する。 最近白熱灯が続々と幻想郷入りしているため
これらのコストもずいぶん安くなった。
しかしながら水棲生物である河童が電気工事をするのは正気怖い気がする。
事故が起こったとき、重傷になりやすく最悪命を落とす可能性もある。
しかし河童達は嬉々として仕事をしている。
こちらの仕事をバンバン奪って、我々のスタッフは暇で仕方ない。
感電のリスクに対して河童達はというと、
沢山の機械を短期間にいじれるのはこのイベントだけだと言うことだった。
なんでも点検要員はくじ引きで選ばれて、倍率数十倍だというのである。
驚いた。
あまりに頑張って仕事をするので様子を見に行ったら、なぜかブレーカー回路から
一本の線がのびている。
それを目でたどるとそこにはバッテリーが据え付けられていた。
誰が見ても盗電である。河童達が頑張るわけだ。
とりあえずこの場は放置して、朝倉にそのことを話したら
点検費用ということで暗黙の了解となっているらしい。
莫大な金を払うよりマシというが、なんとも複雑な気分になった。