□月 ●日  No708 幻想郷のやせ薬


夏は水着の季節。うちの社員も思い思いの水着を買いこんでご機嫌なのだが
いきなり浅間が真顔で聞いてきた。 幻想郷にやせ薬がないのかというのである。
顕界ではやせ薬は幻想入りした薬だから、理屈で考えれば幻想郷にやせ薬があっても
おかしくはない。というのが浅間の主張だ。
魂魄が若くしてビール腹かと笑っていたが、北白河のハリセンで沈黙した。


まずは身内であるエレンのマジックショップに行く。
ヴァイオレンスモードでお前はアホかと言われた。
そういえば上白沢にも同じ事を言われた気がする。 我ながら進歩がない。
食糧事情がお世辞にも良くない幻想郷でやせ薬はナンセンスな物なのだ。


他に薬がありそうなところといえば、ブレザー兎に聞くのが一番だ。
意外と薬の知識もあるし、薬屋みたいに余計な詮索をされずに済む。
聞いてみたらやっぱりあった。やせ薬。 
あとは浅間たちを幻想郷に連れて行き、その場で服用してから顕界に戻ればよい。
が、そうは問屋が卸さないようだ。
ブレザー兎は聞いてもいないのに副作用まで言う癖がある。
が、ここではとても有用な情報だった。


この薬は正確にはやせ薬ではなく、蓬莱の薬に近い代物だという。
体型を常に維持し、少しでも変化があれば薬の力で矯正してしまう。
ところが女性には体型を維持しちゃいけない場面がある。
「妊娠」したときだ。
子供が大きくなっても体型が正しい体型に強引に矯正するのだから
子供は確実に流産する。 それ以前に体型維持機構が胎児にも働くため
いつまでも子供は成長せずついには流産してしまう。
ブレザー兎は「女であることをやめる覚悟がないと飲めません」と言って苦笑していた。
これでは浅間に飲ませるわけにはいかない。


結局のところやせ薬はいずれも副作用がひどく、よくて妖怪用にしかならなかった。
ちょっと残念でもありちょっと安心もした。
配達先の阿礼乙女の家でその話をしたら、やせ薬は幻想入りしていなくて
今も副作用の酷いやせ薬が出回っているということだった。
たしかに顕界にもやせ薬はある。 麻薬だったり、体を悪くする危険な薬として販売が規制されている。


横で聞いていた明羅女史が、腹筋を適度に鍛えればそうならないと言っていた。
言わんとしていることは分からなくもない。
余裕の証かお腹を見せてくれたが、さわるとぱんぱんに張っていた。
それはそれでちょっとアレだと思う。
阿礼乙女が腹筋が割れていた方がよかったですか?と聞いていたが
そしたらもっと引く。


結局、やせ薬は幻想入りしていない事実を浅間に伝えて終了。
あとで社内プールで浅間の水着姿を見たのだがちっとも腹が出ていなかった。
女って言うのは何故こんなことに力を入れるのだろう。