□月 ●日  No707 スタミナのつくものを食べてみようか


この時期になると夏ばてが怖い。
あまりの暑さに食欲もなくなるし、食べ物が冷やすもの中心になるので
胃腸が弱りやすいのもある。


こうした場合はカロリーの高い肉類を食べるのが一番である。
大枚をはたいて幻想郷の焼肉店に足を運んでみる。
値段は知らない方がいい。幻想郷の食事の中でもかなり贅沢な食べ物だ。


結界の外で食べた方がどう考えても安いし、気楽なのだが
魂魄から一度は行けと言われていたのでこれを機会に行ってみる。
さすがに一人で食いに行くのはあまりに心細いので適当に同僚も連れていった。
高いから嫌だと文句を言っていたが、話のタネにと無理矢理引っ張り込んだ。


幻想郷の焼き肉屋は牛鍋屋の流れを汲んでいる。
鉄板のかわりに油をしいた鍋を置いて肉を焼く。
タレは醤油味が多いが総じて辛い。
ご飯が進むが白米ご飯ではないからちょっと感じが違う。
締めはご飯を鍋に突っ込んで肉汁と絡ませて食べる。
雑穀類の多い幻想郷のご飯はパラパラでまるでチャーハンみたいで
これが絶品だったりする。


この辛さのゆえんは、朝鮮系妖怪が伝えたタレによるものだ。
焼き肉と言えばなぜか朝鮮系妖怪の力が強いのである。
彼らは儒教の影響か総じて礼儀正しく、きちんとしている。
だが人間に対して妙に腰が低い。
なんでも、朝鮮系妖怪は襲ってくると言うより行使するものだと聞いたことがある。
ある意味幻想郷とは対極に位置する妖怪たちだと思う。


ちなみにだが焼き肉屋は妖怪用と人間用で明確に分けられている。
人間用は人間の経営者が、妖怪には妖怪の経営者がやっているからすぐに分かる。
理由は・・・。ここで書くべき事ではないと思う。


焼き肉屋の横には必ず石碑が建てられている。
焼き肉を食べたらここでお参りをするのが決まりだ。
何故かって・・・。 ここで書くべき事ではないと思う。


肉は旨かったが、なるほど魂魄が言う一度は行けの理由が分かった気がする。
幻想の世界では食べたものに対する畏敬の念を忘れてはいけないのである。
もちろん、それは外の世界でも言えることだが
それすら幻想郷入りしている事実に一抹の寂しさを覚えた。