□月 ●日  No709 幻想郷の避暑地


幻想郷最大の避暑地に納品。 そこは常時気温が20度前後に保たれており
とても快適な空間である。色々なことに目をつぶればだが。
普通の人からすれば身も心も涼しくなれることだろう。
ここは紅魔館の地下迷宮。 デスマシン妹君が生息する危険地帯である。


雪解け水がたまる地下水脈のお陰で地下は総じて快適である。
魔界神様が地下から離れないというのも分かる気がする。
年中温度変化が少なく、たとえ雨が降っても槍が降っても隕石が降っても安心だったりする。
魔界神様も昔の生き物は地下を避暑地にしていたと仰っていた。


この時期紅魔館の面々は皆地下へ待避する。
デスマシン妹君にとっても退屈しない至福の日々である。
当然納品するときは地下まで商品を運び込まなくちゃ行けない。
長い階段を何度も行き来するのは拷問以外の何者でもない。


地下に降りても休むわけにはいかない。
地下には危険度表示が振り切っているメイド長やヴァンパイアの娘もいる。
普通なら死ねる。 だから危険回避のためには一度降りてまた上がってから休むを
繰り返さないといけない。
入り口までは美鈴女史が運んでくれるのが不幸中の幸いである。
そんな彼女も地下までは足を踏み込もうとしない。


ノーレッジ女史の図書室は室温こそ低い温度に保たれているが
いかんせんかび臭いし湿気も多い。
かつてはデスマシン妹君の部屋は汚物だらけで不潔そのものだったが
今では紅魔館で一番綺麗な場所の一つになってしまった。
ノーレッジ女史の魔法により空調は常に保たれ、カビが生えている場所もない。


地下はむしろ肌寒い。 ヴァンパイアの主人も暖かい紅茶を飲んでいる。
妖精メイドの何人かはすでに風邪を引いていた。
典型的なクーラー病であろう。


さっさと仕事を終わらせて帰ろうとしたが運悪くデスマシン妹君と対峙した。 
胃が締め付けられる感覚を味わいながら応対。
遊んでくれと言われたが、仕事だからとお菓子をあげてお茶を濁す
何とかお菓子は気に入って貰えたのでとりあえずよしとする。
四人に分離して四個くれと言われた時はちょっと微笑ましいと思ってしまった。
この子供っぽい性格は便利なときもあれば理屈が通じない恐怖もある。
いずれにしても仕事以外でここに立ち寄りたくないものだ。


外に出たらあまりの暑さに立ちくらみがした。
胃が痛めつけられて、体温が下がっていたから丁度いい感覚だった。
この炎天下が気持ちいいと思えるのは何か複雑な気分だった。