□月 ●日  No710 一線を超えたと思った


朝倉が仕事の時間になにやら絵を描いている。
一体何を書いたのかと覗いてみるとそこには殺人的に下手な絵が描かれていた。
人間らしい絵なのだが、腕は細すぎ、デッサンってレベルではない酷い代物である。
まるでナスカの地上絵のような妖精の絵である。
何をしているのかと尋ねたら原稿を書いているという。


そういえば、明日は彼女が行く混怪というイベントの日だ。
私も例年通りチケットと買う物のリストを渡された。 なぜかチケットには
「サークルチケット」と書いてある。
意味が分からなかったので浅間に聞いたら、朝倉がなにか本でも出すのだろうということだった。


夜、くたくたになって事務所の消灯をしていたら、何故か朝倉がコピー機の前で
うたた寝をしている。 動いているコピー機から刷られている原稿を見たら
例のナスカの地上絵だった。 いくらなんでも会社の機材を使うのはまずくはないか。


そのとき、丁度トナー切れを示すブザーが鳴った。
かなりまずいことになったと覚悟を決める。
起きた朝倉、こっちの姿には目もくれずに、何故か懐から用意したトナーカートリッジをセットした。
トナーは事務所にあるはずだが、先に持ってきていたのだろうか。


ここでようやく朝倉が私の姿に気づいた。
明日は忙しいから早く帰れと言われたが、どうしても放っておけなくて
会社の機材で同人誌を刷るのはまずいと言ってみた。
朝倉は鼻で笑って、中有の道で使っていた幽霊が見えるメガネを差し出した。


このメガネ越しに先の紙を見てみると、そこには幻想郷の情勢が書き記してあった。
そう、これは幻想郷の外にいる妖怪たちのための現地新聞だったわけだ。
コミックマーケット通称コミケはその名の通り物の怪が混み合う場所である。
木を隠すなら森からというとおり妖怪を隠すなら人が沢山集まっている場所を利用すればいい。
しかも妖怪の姿をしていてもここならコスプレをしている女の子にしか映らない。
カメラ小僧の餌食にはなるだろうが別に重要な問題ではない。
行列さえ我慢すれば、コミックマーケットは丁度いい目くらましなのだそうだ。


買うようにいったこの本は皆暗号が隠されているらしい。
私はずっとパシリだと思っていたがこれはこれで重要な任務だったわけだ。



帰りがけ玄爺に会う。 先の話をしたら、半分くらいは彼女の趣味だと言われた。
挙げ句まだホモ漫画を買わせているのかと言うので、
ボーイズラブというそうですと説明しておいた。
なぜか周囲に漂っていた殺気が消えた。