何故か列車に強面のジュラルミンケースを持った妙齢の男が乗車している。
幻想郷へ行く列車に部外者を乗せるのは異例中の異例だ。
軍隊関係者を示すベレー帽を被り、サングラスをかけている。
今まで色々な荷物を運んできたが軍関係者を送るのは初めてだ。
どう言葉を交わしていいかわからず、昼寝も出来ないまま時間だけが過ぎていく。
せめて寝てくれれば少しは気は楽なのだが、常に張り詰めた空気がそれを赦さない。
朝倉の話では彼を中間管理職狐のところへ送り届ければよいらしい。
幻想郷に突入してやれやれと思っていたところに、箒に乗った魔法少女が襲撃してきた。
霧雨のご息女である。 いつものように適当にモノを盗ませればいいかと思いながら
男の方に目をやると、あり得ないほど動揺していることに気がついた。
「これは現実なのか」
という男のつぶやきに何とも思わなくなっている自分がやっぱり異常なのだと感じ入る。
やがて列車が揺れ始めた。武装列車部と交戦を始めたのだろう。
ここでちょっとしたアクシデントに見舞われた。
何故かケースが開いて中から数枚のお札らしきものが飛び出したのだ。
飛び出したお札は光に包まれ、異形の式神を呼び出した。
文字通り異形の存在である。
このトラブルに気づいた霧雨のご息女が我々がいる客室に侵入してきた。
そこでご息女は我慢しきれずとうとう吹き出した。 私も我慢していたのに。
床に転がって七転八倒。 この異形の式神とは。
らっきょ頭に真っ黒お目々、高さは4尺くらい。灰色の肌。銀色の衣服。
我々がリトルグレイと呼んでいるアレだ。
宇宙人といわれるリトルグレイだが生粋の地球産である。
第一地球由来の月人じゃあるまいし、人間の姿をした宇宙人そのものが幻想である。
そう言う意味では幻想郷にこそ相応しい生き物だ。
私も朝倉から聞かされたことがある。橙の伝聞情報を元に開発された米帝製の式神。
橙のぱっちりくっきりした目は、伝言ゲームの末黒くて巨大な目ということになり
小柄な肉体は再現したが、その代わりプロポーションは酷い代物になったと言われる。
霧雨のご息女はひとしきり笑った後、ノーレッジ女史の図書館で見かけた火星人そっくりだと言った。
するとなぜか式神が激昂した。インチキ関西弁で「火星人ちゃうわ」と叫ぶと
霧雨のご息女に襲いかかる。 よせばいいのに。
そして一瞬でのされるリトルグレイ達。 まさに秒殺だった。
あまりに簡単に倒れたグレイを一瞥した霧雨のご息女。飽きたのか何もとらずに帰ってしまった。
*
この男なかなかの狸である。 霧雨のご息女がやってきたとき彼はジュラルミンケースの鍵を
外していた。 あんなケースが突然開いてしまうこと自体非常識である。
おおかた米帝製式神の実践テストをしたかったのだろう。
あとでこの男が元アーミーのゲイツと名乗る人物であることを知ったが、
エーリッヒ博士の関係者だって知らされてなければ今頃妖怪の餌になっていたことだろう。
中間管理職狐がリトルグレイにどんな反応をしたのかは気になるところである。