□月 ●日  No813 魔術師メリー


ハロウィンである。
西洋版お盆。今年は顕界にいられることになった。
何が起るのかと思ったら、例の秘封倶楽部がまた変なことをしようとしている模様。


秘封倶楽部というのは言うなれば魔術倶楽部である。
正直、素人の魔術ほど危険なものはない。
朝倉でさえ魔術の準備期間とか段取りにはかなり気を遣うのに
わざわざ危険な日を選んで魔術を使おうとは正気の沙汰ではない。


ハロウィンの趣旨を簡単に説明する。
西欧の場合、我が国の盆と違って日が分散していない関係で一度に沢山の霊魂が戻ってくる。
このとき死神達のチェック機構が甘くなる。
結果悪霊たちも大量に顕界に流入してしまうため、一般市民が迎撃する羽目になったわけだ。


当然魔術の成功率も高くなる。
そりゃそうだ。 悪霊が魔術に手を貸すことが多いのだから。
その後のリスクもとことん増える。 そこで今日の私の仕事は魔術の邪魔をすることだ。
たとえば蝋燭の位置をずらしたり、朝倉の指示通りの魔術文字に手を加えたりと
かなりセコイことをする。


外では魂魄や冴月が必死に悪霊たちを迎撃している。
博麗の巫女がいればきっと楽だろうなと思えてくる。
霊能局は今日のうちに予算の大半を使おうと武器をしこたま持ち込んでいる。
丁度道路族が年度末に道路工事を集中させるようなものだ。


さて、案の定あの二人は変な魔術を実行しようとしていた。 上手い具合に
隙をみて魔術文字を改める必要がある。
ふと魔術文字のメモと照らし合わせると、なんかおかしい。
メモの通りに魔術文字が書かれている。本当にそれでいいのだろうか?
まさか直す前のメモを持って行っているのかと思い、ホームポジションに直そうとしたら
二人にあっさりばれた。 


とりあえず、この魔術文字は間違っていると言ってホームポジションといわれた文字に改める。
すると魔術が少しづつ発動しだした。 大喜びする二人。
私は冷や汗が止まらない。 まさに余計なことである。
これは危険だと言って、朝倉の支持どおりの文字に改めると今度は発動しなくなった。
とりあえずほっとするも、今度は二人から睨まれた。


とりあえず出任せで魔術文字のバグを指摘する。
最初は半信半疑な二人だったが、私が最初に魔法文字を直したことで発動しだしたことも
事実なので納得して貰えた。 魔術実験をするときはハロウィンを避けろと言うと
二人の目が爛々と輝いているのが見て取れた。


あとで会社に戻ったら、秘封倶楽部のふたりから会社あてにまた来てくださいというメールが
来ていたらしい。 朝倉は隅におけないと言ってニヤニヤしていたが
本当のことがばれやしないかと終始ドキドキする羽目になった。
あとで冴月が本を差し替えていたことがわかった。 
横の連絡くらいきちんとして欲しい。