□月 ●日  No2187 変な手癖


 八雲商事に入社したメリーとレンコに待っていたのは猛烈な魔術の再教育だった。
なにしろこいつらときたらほぼ自我流。 ほぼと書いたのは顕界では想像以上に魔術に関するテキストがあるということ。
テキストは基本的に事故防止のためにあるもので、魔術を使うことによる問題で死者を出さないようにという
配慮のもとで作られている(信じられないが黒魔術の類もそうだったりする)。 本当に危ないものは大体関係のコミュニティが
回収などを行っているというのが実情である。


 しかしこうした散逸した情報ソースはしばしば彼女たちに誤った知識を与えてしまう。
そんなわけで彼女たちは試用期間の間、ひたすら研修とレポートに明け暮れるという事態になった。
これじゃ大学生活と変わらない。むしろ今のほうがきついというのがレンコの弁だが、そうしなければ
二人がより深くを覗き込んだ時に事故にあう可能性がある。


 朝倉に言わせると私のほうが教えるほうは楽だという。変な癖がついている人を矯正するのは極めて難儀だからだ。
まして一応能力を行使できている点が始末が悪い。
 そんなレンコたちだが、最近はようやく朝倉の言うことを聞くようになったらしい。
理由は簡単、朝倉のやり方なら身体的負担が少ないからだ。
そもそも魔術で身体的負担が高いものを使えばすぐに制御不能に陥る。制御不能になれば命を落とす可能性が高い。
そこで魔術は最適化プロセスが必要になる。より堅牢に、手続きを増やして術者の身体的負担を減らすように機能する。
 動けばよいプログラムからの脱却である。


 そんなわけでようやく秘封倶楽部の二人の矯正作業は大体終わったわけだが、
結果として彼女たちの行動範囲が飛躍的に伸びてしまったわけで、色々頭が痛い次第である。
いやマジでこいつら早く何とかするなり、寿退社させたほうがいいかもしれない(実質的な問題解決にならないが)