□月 ●日  No822 髪型に見る七五三


ヴィヴィットの定期メンテナンス。
動力を切ったヴィヴィットの重さは本当に堪らない。
空を飛ぶための技術を用いて体重制御していないと大人数人かかりで運ぶ羽目になる。
岡崎の願いで手伝うことになったのだが、こんなに大変なら付き合わなければ良かった。


ヴィヴィットの脳内デバッグ作業をしていたら
面白いデータを見つけた。 理髪店でアルバイトをしている時に用いる髪型データである。
当然妖怪毎にたくさんの種類が用意されており、髪質から堅さに至るまで細かなデータが
サンプリングされていた。 誰々が実は枝毛に悩んでいるとか、天然パーマだったとか
酷いケースでは円形脱毛症の場所まで記されていていた。
さすがに誰とは書くことができない。 ばれたらたぶん私はこの世にいない。


妖怪たちのデータはスルーして一般の人たちの髪型データを閲覧してみる。
するとこの時期ならでは風習が見えてくる。


三歳までの赤子の髪型に着目すると、そろいも揃って坊主頭だということがわかる。
男の子も女の子も関係ない。赤子の散髪は無料と決まっているらしい。
そんな赤子が髪を初めて伸ばすのが実はこの時期である。俗に言う七五三だ。
なんでも赤子の時に髪を剃っておくと強い頭髪になるのだという。
本当かどうかはわからないが、謂われが重要視される幻想郷である。
ヴィヴィットの統計データを見ると一般的に幻想郷の人間の髪は総じて硬いことが知られている。


顕界では七五三で写真屋やら衣装屋やら神社が賑わう季節であるが
実は幻想郷でも七五三の風習が存在する。 そもそも幻想郷が顕界と完全分離した頃
七五三の風習が定着したため、幻想入り関係なく同じように風習が存在しているようだ。
しかし、幻想郷の七五三はより昔の七五三の思想を色濃く反映している。
よく顕界では三歳は女の子のための儀式と勘違いされるがそれは明治以降の商業主義が生んだ
風習であるという。 


さてうちの列車でもこの時期に合わせて子供用の袴着が輸送される。
五歳になれば男の子とは帯と袴を初めて着せられる。
女の子は7歳で付帯を着けることになる。
ここでいよいよ性別の違いが明らかとなるのである。


これら着物はたとえば上白沢の私塾などに纏めて運んでそれから各世帯に運んでいるようだ。
もっとも顕界で着るような煌びやかなものではない。
しかしだからこそやたらコストが掛ってるのも確かで、一応隙間妖怪やら賢者達が
コストの一部を肩代わりしているらしい。


ヴィヴィットのメモリを見ると、各親御ごとに細かな注文がつけられており
七五三を迎えるために少しでも子供にいい格好をさせようと苦心している姿が目に浮かぶ。
この辺の喜びや親の願いは顕界も幻想郷も変るものではないようだ。
面白いのでこの記憶領域をバックアップすることにした。
決して円形脱毛症に苦しむ妖怪たちを特定するためのものではない。 決して。